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3:朱い窓 |
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谷口が死んだ。 今まで一緒にサッカーをしてきた人間が、目の前であっさりと死んだ。 ……少年達の心に、何かが生まれる。
「ほら、真田くんも座って。早く着席しないと―――」 真横で起きた殺人に身を仰け反らせて席から離れていた真田に、西園寺は黒光りする銃をカチリと構えて見せた。 「本当は教官である私が殺してはいけないんだけど……違反者にはそれ相応の罰が下されること、きちんと覚えておいてね。私の言葉に従わない者は反逆者と見なします。進行を妨げる人もね。」 そこまで言うと、彼女は掲げていた銃をやっと下ろす。
一度姿勢を正してから、西園寺は続ける。
「通常なら出席番号順に出ていって貰うんだけど、今回はその辺りのハンデも無くすためにくじ引きにします。私が呼んだ番号の人は速やかに退出して下さい。あ、それとカバンだけど―――」 パチン、と西園寺が小気味良い音を立てて指を鳴らすと、前方のドアから軍人らしい服に身を包んだ男が三人、揃った足取りで入ってきた。 「出るときにこのお兄さん方からカバンを受け取って頂戴ね。先程言った物が一式、入っています。ランダムに渡すから贔屓はないわ。中身は私も、この方達も知りません。」 西園寺の言葉に、軍人の一人がカバンを取って掲げてみせる。 「今0時2分前ね……では0時から開始します。間には2分のインターバルを置くことにします。でも早く出ていかないと、次の人に追いつかれてしまうから気を付けてね。出口はそのドアを出て右を真っ直ぐ進んだ所です。間違えないように。この廃校は全員出発したあと、禁止エリアに指定されますので動作は機敏かつ速やかに。あと、呼ばれたら元気良く返事をしましょう。―――では、そろそろくじを引きましょうか。」 簡単に説明を終え自分の腕時計に目を通した西園寺が軍人に目配せをすると、扉側にいた一人が外からサッと外に何も書いていない質素な箱を持ってきた。 皆固唾を呑んで、西園寺の言葉を待つ。 一体誰が、一番にこの教室からいなくなるのだろうか?
「出席番号3番、伊賀仁吉くん。」
西園寺が告げたのは伊賀の番号と名前だった。 「……伊賀くん?」 全員の視線が伊賀に集まる。 「伊賀くん、早くして頂戴。それとも―――」 「お、俺、殺し合いなんて出来ない……ッ!でも、死にたくもない……ッ!」 イライラとした口調で急かせた西園寺に、彼は震える声を振り絞ってそれだけ答えた。
そして、沈黙が訪れる。
時間にして30秒もなかっただろうか。 「伊賀くん、多分、この教室にいる人の大半が貴方と同じ気持ちでいると思うわ。そうして、どうしたらいいかをきっとその人なりに考えています。―――でも、貴方は考えることさえ放棄して、逃げようと言うのね?」 言葉尻にはほのかに怒りさえ漂っている。
―――ピッ。
伊賀の沈黙によって訪れた束の間の静寂は、だが、そんな電子音によって打ち破られた。
……何処から聞こえる? ピーッピーッと、一定のリズムで鳴り響く警告音のようなこの音色は。 死に神のような彼女が持つ、黒いリモコンから? 違う。 それじゃ、彼の首にはめられた枷から?
―――――― “ 大 正 解 。 ”
びちゃ、と伊賀の後ろの席だった上原淳の顔に、生温い液体が無遠慮に降り掛かる。 ゴツリ、と。
五月蠅いくらいに鳴り響いていた電子音は、細い音を立てて間もなく―――消えた。
「伊、賀……?」 伊賀の血を浴びたままの上原が呆然と、目の前で窓に寄り掛かっている形の伊賀の後頭部に語りかける。 伊賀の首には首輪の残骸が、申し訳程度に引っかかっているだけだった。
そして、少年達は理解した。 西園寺のリモコン操作によって、伊賀の首輪が爆発したことも。 爆発の衝撃によって、彼の首が半分ほど消えてしまったことも。
「首輪が爆発するとこうなります。覚えておいて。」 相変わらず西園寺は抑揚のない声で、幼い子に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。 「……そう言えばこれは蛇足だと思うのだけれど、今みんなが着ている制服はこのプログラムのために作られた物です。ユニフォームのサイズを参考にしたから、サイズは大丈夫なはずね?」 それは有り難いことで。 心の中で毒突いた者がいたことは、きっと西園寺も気が付いていた。
「中断したせいで随分時間を食ってしまったわね…今0時10分。さっさと参りましょう。」 時間を確認して、西園寺はまたあの何の飾り気もない白い箱にその綺麗な腕を忍ばせる。
「出席番号31番、吉田光徳くん。」
「……はい。」
関西弁独特のイントネーションでそう返事をすると、吉田は淀みのない動作で教卓へと向かう。 「はよぅ、そのけったいなカバンをこっちに渡してや。」 のんびりと言う吉田に、真ん中の軍人がカートの中から一つ、カバンを取り出して投げつける。
……2分が過ぎる。 次に呼ばれたのは日生だった。
更に時は過ぎる。 3番目に呼ばれたのは、郭だった。 「友情ごっこも結構だけど―――気をつけて、ね。」 微笑みながら言った西園寺の言葉にカチンときたのは確かだが、ここで怒り狂うほど郭は愚かではなかった。 「……肝に銘じておきます。」 正面を見据えたままそれだけ言うと、郭はカバンを受け取り、廊下の闇へ消えていく。
滞り無く、旅立ちの儀式は進んでいく。
郭の後は内藤孝介だった。
次は桜庭だった。
桜庭の後は、阿部。
その後、天城、不破、藤村、黒川、畑の順で名前が呼ばれた。
「今までで11名が外に出たわね。」 時刻にして0時32分少し過ぎ。 「気付いていると思うけどこのゲームは出発が早ければ早いほど有利だわ。自分の有利な場所を見つけて、出てくる人を狙い撃ちにすることもできる。今まで銃声が聞こえてこなかったのは皆先に行ったか、それとも銃器系じゃなかったか。そのどちらかね。これからの人は前に出て行った人に比べて不利にならざるをえないけど―――頑張ってね。」 まるで独り言。
紙を広げたところで、彼女は今までにない反応を見せた。
面白そうに口の端を上げている。 ゆっくりと開かれた唇から紡ぎ出された名前は。 ―――教室内に今までにない波紋を呼ぶことになる。
出席番号3番 伊賀仁吉 死亡 《残り ― 30人》
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