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29:想われるもの |
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辺りは暗く、重く、更に言えば静寂に満ちていた。
(そんなに大きな島じゃなかと、すぐに逢えると高を括ったんが甘かったちゅーことか。)
探し人には未だに巡り会えない。 けれども。 どうしても離れ難かった。 例えもうその目は開かないと知っていても。 思えば何と往生際が悪く、浅ましいことなのだろう。 それでも、放送が入れば死亡者を確認して、地図に印をつけて。
それでも、あの時功刀を思い続けた時間は、無駄だったとは思いたくなかった。
「う、わッ!」
考え事をしながら歩くという行為は、危険を連れて来る。
それから1時間程経っただろうか。
ふと支給された時計に目を止めれば、20時を示すところだった。 後ろ向きな考えばかりの自分は、自分であって自分ではなく。 いつもそこだけは誉められていた、「前向き」という言葉がこれほど似つかわしくない自分など許せず。 功刀が一生懸命に遺してくれた言葉を、風祭に伝えなければ何も始まらないし、終われない。 ぱん、と風祭がよくやるように両頬を両手で少し強めに叩くと、ほんの少しだけ、風祭の勇気を貰えた気がした。
決意を新たに踏み出した足は、彼にささやかな贈り物を連れて来た。
見紛う事なき、愛し人の姿形。 聞き間違えるはずの無い、彼の声色。
高山の目に突然飛び込んできたのは、数十m先をこちらに向かって歩いてくる風祭の姿だった。
「かざまつり!!」
知らず、声を張り上げてしまう。
「風祭、風祭!」
夢中になって、彼の名前を呼んだ。
正面から来た風祭はその声に酷く驚いて、びくりと身体を竦ませたけれど。
「高山、くん。」
こんな偶然が、果たしてあっても良いものなのだろうか。 今の現実が幻でないことを確かめるために、繋ぎとめておくために、高山は風祭に思い切り抱きついた。
風祭はやはり驚いて目を瞠ったけれど―――それでも次の瞬間には微笑みをその幼い顔に乗せていた。
感激のあまり涙を両目に浮かべながら、高山は良かった、と繰り返す。 そして、「藤代の代わり」なんて、言い訳にしか過ぎないことも、知っていた。
「高山くん、泥だらけだね。」 「風祭なんか怪我だらけじゃなかとね!一体どうしたと…。」
ようやく離れた高山を見て呟いた風祭に、高山はぎょっと目を見開く。 愚問だ、と。 そこで、ようやく高山は風祭の後ろに控えていた真田の存在に気が付く。 「確か、東京選抜の……。」 ぶわっと湧き上がった郷愁に戸惑いながら、高山が真田に声をかける。 「真田だ。お前は九州選抜にいた奴だよな?」 真田の方も試合で戦ったとは言え、人の名前と顔を苦手としていることもあり、高山のことをなかなか思い出せなかった。
「お前は…乗って、ないよな?」
このクソゲームに。
確信と確認の意味をこめて尋ねれば、高山はとんでもない!と首を横に振りまくる。 「こんなのゲームじゃなかとよ!乗るわけなか!」 憤慨してそう言う高山に、真田はそうだよな、すまん、と短い謝罪を口にした。
お互いにこれまでの事は聞かなかった。 「僕に?…なんだろう。いいのかな、そんな大事な…。」 戸惑いと、恐縮と。 何故自分なのかという疑念と。 複雑に入り混じった表情を、高山は真っ直ぐに見つめる。
「他の誰でもない、風祭に聞いて欲しいかことばい。」
その視線は真摯過ぎて、風祭は面食らう。
「受け取ってくれんと、俺がカズさんに怒られると。聞くだけでいいけん。」 へにゃっと相好を崩して、高山は力無く笑う。
「"死なんで欲しい”―――そう、カズさんは笑って逝ったと。」
短すぎる、最後の言葉。
(どうして。) (僕なんかに。)
守られてばかりの弱い自分。
ぽつり。
「風祭?」
「…ありがとう、って僕からの伝言は、届かないんだよね…。」
届けられた想いに、届かぬ想いに、涙する。 「僕が死なないことが功刀さんの願いなら、頑張ってみる。」 誰かを殺すわけじゃない。 ただ、自分を殺さないだけ。 それだけでも、功刀は良しと笑ってくれるのだろうか。
「…ありがとう、な。風祭。」
ぐしゃりと顔を崩して、高山も泣く。 カズさん、見ていてくれますか。 (俺が風祭に逢うことが出来たんは、カズさんがどこかで見ていてくれとったからかもしれんね?)
偶然か。必然か。 どちらでも良いと思った。
だって今風祭は自分の傍に居て、功刀の言葉を受け取ってくれて。 それだけで、もう。
涙する2人に、真田は何も告げられずに立ち竦む。 また、風祭は守られる。 自分の事は棚に上げて、真田は思ってしまった。
早く、風祭がこころから笑えるときが来ればいい―――。
神に願ったのか、仏に願ったのか。 それとも風祭を思って死んでいった者たちに願ったのか。
真田は痛みを表情に乗せて、困ったように口の端を上げるだけだった。
《残り ― 12人》
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