恋人達の夏

 
 

B級ホラーにでてくるような教会。
冷たく暗い感じが漂う。
もともと引きずるようにして連れてきた若林は直視できずに震えている。

きしんだ音をたててようやく開け中に入ってみるとかなりの数の霊たち。
大半が理性のない奴らばかり。
みな白目をむいていたりゾンビ化していたり血まみれだったりと一緒に食事はしたくない奴らだ。

それでもせっかく来たのだし連中も取り憑くそぶりもないので奥の祭壇に近づいてみる。

 

「行かないほうが良い。早くここから出よう。」

 

若林が泣きながらシェスターの袖を引っ張る。

「泣くほど怖い?かなり気味悪い連中だけど泣くほどじゃ…。」

「勝手に涙が出てくるんだよ。一番奥にいる人がすごく悲しんで泣いてるから。」

「それって波長が合ってるってことだよね…。取り憑かれそう?」

そうシェスターが尋ねた時、バタン!!とドアが閉まった。

「セオリーな…。」

「風か?開けるのに苦労したのに…。」

「出よう!なあ、出よう。ここは嫌だから。なあ、出よう!!」

カルツの言葉を遮って泣きじゃくりしがみついてくる若林。
シュナイダーがシェスターを睨み付けた。
視線で人が殺せるなら間違いなくシェスターは死んでる。背筋が冷えるような視線だ。

 

「そ、そうだね。出よう。カルツ、シュナイダー、帰ろう。」

 

明確な殺意を感じ引き攣りつつ若林をシュナイダーに押し付ける。
途端にシュナイダーの視線が和らぐ。まったく現金なものだ。

カルツが力いっぱいドアを蹴っているのに見た目は壊れそうなドアなのにビクともしない。
ドアを守るかのようにその場に集まる魑魅魍魎ども。さすがにシェスターも引き攣る。

正直言えば自分は大丈夫だと思う、取り憑かれることも無い。
あれだけ悪霊に囲まれても欠片も感じていないカルツも大丈夫だろう、徹底的に若林をなだめているシュナイダーも大丈夫だと思う。
2人はまったく霊感が無くこの部屋の嫌な感じすら平気なのだ。

問題は若林だ。

この部屋に入ったときから泣き出し、今は厭々と何かを拒んで必死で自我を保っている状態だ。

 

「さっさと開けろ。」

 

偉そうにカルツに言いながらも若林の肩を抱き涙をぬぐってやっているシュナイダー。

「簡単に言ってくれるな!見た目以上に頑丈なドアで。っこの!」

言われたカルツは不満をぶつけるように思いっきり蹴り上げる。
シェスターはドアに集まる悪霊を払う方法がないかと考えをめぐらしてはみる。
が、考え付かない。

 

「どけ。」

 

そう言ったが早いか、どこからか出したボールでファイヤーショットを放つ。

そんなものでどうなるものでも…。
諦めた顔でシュナイダーを見ていたシェスターだったが…。

 

 

破壊音を立ててドアは開いた。

 

 

うそだろう、おい!しかもあれだけいた悪霊ども全て祓っちゃったよ。こいつ何者…。
呆然と皇帝を見つめる。

シェスターの視線もどこ吹く風。あくまでも皇帝が心配なのは若林だけ。逃げ遅れて壊したドアの破片が当たり倒れているカルツには気にも留めない。その潔さはいっそ気持ち良いくらいだ。

 

「ドア開いたからもう平気だ。さあ、外に出よう。」

 

若林を抱きかかえるかのようにして破壊したドアから出て行く。当然、倒れているカルツは無視、どころか踏みつけていく。

友達なくすぞ、お前。

心の中でシュナイダーへの苦情を言いながら倒れたカルツをまたいで外に出る。

そこでシェスターが見たものは。

 

「怖かったんだな。でももう大丈夫だからな。」

優しく頭を撫でて甘く囁くシュナイダー。

「ん。」

こくこくと頷きながらしっかりとシュナイダーに抱きついている若林。

シェスターは教会の中に戻ろうかと真剣に考えてしまった。

そんなシェスターを押し留めたのは再び集まりだした霊たちの気配。
どうやらこの教会は霊が集まりやすい、いうなれば霊の団地。空きでれば次の入居者がすぐに寄ってくる。
一体一体は力はないが、集まると先ほどのように面倒なことになりそうだ。
さっさとこの場から離れたほうが良い。賢明ではあるが倒れたままのカルツを見捨てるという実に不人情な判断をした
シェスターが考えている間の二人といえば。

 

「シュナイダー、お前すごいなあ。」

頼り切った目でシュナイダーを見つめる。

「そうか…?惚れ直したか。」

「…うん…。」

視線を逸らしうつむきながらもうなづく。

この間、抱き合ったままである。

目の前でいちゃつく二人に蹴りをいれてからこの場を離れようと決意したシェスターをとがめることは出来ない。

その決意の間にも。

「こんなことがあったらオレを頼れ。良いな。」

「うん。そうする。」

絶対に蹴りいれる。
そのうえ殴らせろ。
決してボクがもてないからじゃない。
この緊急事態にベタついてるのが許せないだけだ。

握りこぶしを作って決意を固めたシェスターは二人に向かって歩き出した。

シェスターがたどり着く前に。

 

「約束だ。何があってもお前を守るからお前はオレに頼れ。」

 

「うん。」

 

抱き合い見つめあいながら言葉を続けていく。

「それじゃ、誓いの…。」

シュナイダーが若林にキスをした。

 

誓いかよ、約束ちゃうんかい!!

目の前でキスまでされてシェスターは泣きたくなった。

 

泣いてる場合じゃない。悪霊どもが!シェスターが気を取り直すと…。

集まりつつあった霊は消えていた。
おまけに嫌な感じが漂っていたこの場所まで甘ったるく…否、清められている。

「…愛って偉大…。」

呆然とつぶやいてしまう。

「あ、シュナイダー。オレだってお前助けたいんだからお前もオレに頼れよ。」

「そうさせてもらう。」

依然として恋人達の会話は続くのだった。

 

End…

 恋人達の夏〜被害者編〜へ

お礼コメンツ

 

ツボ〜…!!
は、失礼致しました。
いのぽんさんからまたまたツボ直球なお話頂いてしまいました〜vv
んもう、皇帝の盲目っぷりが愛しいですvv(カルツやシェスターには良い迷惑ですが)
霊感強くて、悲しみに暮れる霊と同調して泣いてしまう若林くん。優しい人なんだな〜とあさってな方向で考えてみたり。
やっぱり夏は怪談ですよね!そして肝試し!!
このシチュエーションは昔から大好きなのですv

いのぽんさん、本当にありがとうございましたvv