食堂事件簿〜前編〜

 
 

 

昼食時の食堂。
いつもならいくら食べても足りない成長期の男子が集まり隣にいる人との会話すら難しいほど騒々しい場所が静まり返っている。
ほんの少し前までは賑わっていたのだ。

 

少し前に時間を戻ってみよう。

 

若林は普通に昼食を済ませトレーを片付けようと歩いていた。
わずかに段差があり更に床が濡れている場所で彼が滑って転んだときすぐ横にいたシュナイダーが持っていたトレーを放り投げて支えようとして彼もまた滑って転んだ。
そこは皇帝様。
気合と根性とそれらを足して二乗した以上にある恋人への愛情で若林だけは怪我のないようにと若林を庇うように抱えて転んだ。

残っていたお茶を頭からかぶったものの若林は無傷だった。

「シュナイダー、大丈夫か?」

自分の下にいる男に声をかける。
庇われたことは微妙に癇に障るがそれで怪我をされたら申し訳ない。

「口、切ってる。悪い!」

わずかに唇の端に血が滲んでいる。
いつもなら怪我として認識しない程度だが自分のせいでの傷だ。
若林の顔が申し訳なさでゆがむ。

「舐めておけば良い。気にするな。」

言われなければ気付かない程度の傷で相手を傷つけては何にもならない。
ほかにも傷はないのだ。
若林が気にする必要はないとシュナイダーは思いながら体を起こす。

「本当?悪かったな。」

ペロと傷を若林が舐めた。
若林はシュナイダーの膝の上に乗ったままでシュナイダーは若林を抱えたままで、唇を寄せている。

非常にやらしい。皆が注目し息を潜めつつも心の中で突っ込みまくっていた。

 

「ゲンさん。自分で舐めるってことじゃ・・・。」

 

ぽつりと食堂中の人間が思っていたことをつぶやくカルツ。

 

 

「へ?」

 

 

たっぷり秒針が一周するくらい間をおいてから自分がしたことに気がついた彼の行動は早かった。

かぶったお茶が蒸発するくらい顔を熱くし散らばっていた食器を回収してカルツに託し「オレの馬鹿〜!!!」と絶叫に近い声を上げマッハで食堂を後にした。

残されたシュナイダーも負けずに早い行動だった。

「汚れたからシャワー室だ。二人とも午後は出ん。」

言い放つと光速で若林を追う。

 

 

 

二人がいなくなった食堂は賑わいを一瞬取り戻した。

「シャワー室で始めるのか?」

「後で行ってみるか?」

「オレもまぜてくれないかな。」

などなど・・・。にやけた顔で会話していた連中が仕事人の楊枝で倒れるまで賑わっていたのであった。

 

 

…後編へ…