31:志半ば

 

 

 

僕が。僕だけが。

このゲームを生き抜いて、彼女のところに戻るんだ。

 

 

死んだ人数はもうどのくらいになったのだろう。
数えることすら億劫で、杉原はひーふーみーと数えるふりだけした。
自分が殺したのは2人。不破と天城。
どちらもカザくんが仲の良かった友人だなぁとぼんやり思う。
そんな彼らに会えたのは何の力が働いたからなのだろう。
神だなんてそんな存在は信じていない。
だから、殺したことで報いを受けるなんて思ってもいない。
ある意味、とても現実主義者だった。

(お腹は空かない。もらった食料も役に立たないな。)

そうなのだ。
このゲームが始まってから空腹を訴えることはなく。
ただひたすらに帰省欲だけが募って仕方なかった。
出て行くときに杉原に心配そうに声をかけた彼女。
彼女は、元気だろうか。
もう何年もあっていないような錯覚に陥る、そんなはずないのに。
せいぜい何日、何時間だろう。
でも、懐かしい。

(泣き虫なところがあるからなぁ。大丈夫かな…。)

 

おかあさん。

 

杉原の唇は確かにそう、動いた。

 

出立前、杉原は玄関口で母親に呼び止められた、
襟が少し曲がっているわよ、と。
そしてやさしいしぐさでそれを正すと、彼女は泣きそうな顔で笑った。
杉原がどこかに出かけるとき、彼女は必ずこんな顔をする。
たとえどんな近場でも。
心配でたまらないと表情で訴えてくるのだ。

「大丈夫だよ、お母さん。合宿に行くだけなんだから。」

「でも、怪我とか心配だわ。」

「早々僕が怪我をすると思う?」

「…でもね、心配は心配なの。頭に受けてお勉強できなくなったらどうするの。」

「あ、そう僕より。勉強が心配なんだね。」

「そういうわけじゃないのよ。もう、分かっているのに意地悪ね。」

ぽんぽんと頭を撫でて、杉原の母親はすっと離れた。
それを杉原は見送る。

 

「気をつけてね……多紀。」

 

 

(泣いてないかな。僕が心配で、はらはらしてないかな?)

おろおろする彼女を見るのはちょっと楽しい。
それだけ自分は大事にされているという証拠だから。
くすり、と笑って杉原は辺りを窺った。
気配がしたのだ。確かに。

(誰か……いる?)

 

 

「藤村、そんなせかせかせんと、のんびり行こうや。」

「いや、俺はあの真田とか言うやつをやらへんと気がすまへん。ついてこれないなら置いていくで、ノリック。」

 

がさがさと音が鳴るのもかまわず、藤村は進む。
その後をのんびりと、しかし離されないようにと吉田がついてきていた。
藤村は未だに水野を殺したのが真田だと勘違いしている。
正してくれる人間がいなかったのだから仕方ない。
そして吉田はむしろ藤村側の人間だ。
真田を庇う理由が見つからない。

その二人を杉原が見つけた。
やってしまうか?
理由はなくても「帰りたい」ただそれだけで十分な気がした。
殺す理由なんて単純明快で良いのではないかと、杉原はこっそりと笑った。

ボウガンを構える。

天状から奪った、殺傷力のある武器。

いまさら、躊躇いなどなかった。

 

「っノリック!!」

 

ぐさぐさぐさぐさぐさぐさ。

背中に矢がこれでもかという本数刺さる。
そしてその主は金色の髪の毛を靡かせていた。

 

「ふ…藤村…!?」

どさり。

自分の上に凭れ掛かってきた友人の体を抱いて、吉田は呻いた。
どん、と押されたと思ったら次の瞬間に目にしたものは。

「ノリ…ック…無事か…?」

「あほ、人の心配の前に自分の心配しぃや…!」

「そ、やな…」

「藤村…?」

「……」

「ふじむらぁ…?」

ぽつり。

もう動かない友人の為の涙が落ちた。
偽善ではない、純粋なものだと言い切れる、そんな雫だった。

 

杉原の方は狙いを外して些か動揺していた。
どうしよう、このままあっちも撃つべきか。

はじめに立ち直ったのは。

 

「…死んで、詫びや。」

 

がぁん、がん、がぁ…ん!!

 

吉田だった。

「これで藤村も報われるとええねんけどな。俺のせいで死んでもうた…。」

彼の放った弾丸は寸分違わず杉原を捕らえ、杉原は真赤な血をぶちまけてその場に倒れるしかなかった。
事切れる寸前、おかあさん、と確かに唇が象ったが、それを確認したものは皆無だった。

吉田は持ち直す。杉原を屠った武器を。
そしてある決意を固めていた。

 

「生前あれだけ執着していた『真田』、俺がきちんと始末つけてやるさかいにな。」

 

   

   

  

  

  

  

  

  

《残り ― 9人》

  

  

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