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+ Eifersucht + act:7 皇帝【歪曲微笑】 |
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全てが欲しかった。 |
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――― 聞き間違い、か?
涙を瞳に溜めたままの若林が呟いたのは、どうにも自分に都合が良すぎる言葉。
俺はきっと、起きたまま夢を見ている。
しかし。
目の前に広がる光景が、あまりにも現実味を帯び過ぎていて、夢なのだと割り切れない。
何を、期待しているんだ。
手に入らないのだから忘れてしまえ。
彼の笑顔も、温もりも、心地良さも。
――― 全て。
そう。
今感じている、左腕の痛みさえも。
「若林。」
遠慮がちに名を呼ぶ。 ワカバヤシ――― もう、呼び慣れた名だ。 3年間、呼ばない日はないんじゃないかと思うくらいに、俺は彼の名前を紡ぎ続けた。
醜い嫉妬は。 日々積もっていった。
何故、俺の名を呼ばない?
何故。
……答えなど、ある筈がない。 そこに横たわるのは事実だけ。
自分の想いを自覚してから。 燻る想いを抱えて。 眠れない夜を、一体幾つ越えただろう。
「…同情なら、それは俺への最大の侮辱だ。」
柄にもなく震えた声が、自分の喉を通って外に出た。
けれど、若林は首を振る。
「ちが…。同情なんて、安っぽいもんじゃねぇ…。」
涙声は、心をざわつかせる。
「若林。」
もう一度、呼ぶ。 今度は、微かに色を添えて。
返ってきたのは。
言葉じゃなく、息苦しいくらいの抱擁だった。
「ッ悪ィ……ッ!」
さっきとは逆に、今度は俺が若林に抱き締められる形になる。
思わず唇を噛み締める。
きっと、まだ泣いてる。 泣いてる。 泣かせているのは。
――― 俺。
はた、と突然気付く。 なんて歪んだ満足感。 いつも泣けない若林が、ひたすら、泣いている。 傷付けているのだとしても。
口の端が変に笑みを象る。
この瞬間の若林は、確かに俺のものだ。
……。
結局。
忘れられるはずも。
諦められるはずも。
なかった。
「何を、謝る。」
さりげなく若林の背中に腕を回しながら、少し緊張した声で問う。
「鈍いにも程があるって……自分でも、思う。」
ぎゅ、と込められる力は、愛しさを募らせるだけだった。
「何で、ずっと、気付かなかったんだろう。」
戸惑いながら、それでも、一生懸命何かを伝えようとする若林が、泣きたい位にいじらしくて。
「俺はもう、きっと、ずっと前から―――――― 」
その言葉を聞き終わらない内に。
俺は若林の唇を塞いでいた。
ハッピーエンドに向かいつつ。
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