+ Eifersucht +  act:5 K-Side【本音偽装


――― こんな奴、知らない。

 

 

俺の知っている若林源三と言う男は、いつも毅然としている。
真っ直ぐ前を見つめる瞳は、ギラギラと輝いていた。
飽くなき向上心と、もって生まれた天賦の際で、トップに立つべき人間。
迷うことなど、ありはしない。
自分を信じて、ただひたすら突き進む。
およそ、弱さとは無縁の人間。

だから。

 

―――こんな、怯えた表情を曝け出す若林なんか、俺は知らない。

 

 

 

胸倉を掴む右手は、力が入りっ放しで血管が浮き上がってきている。
きっと醜い顔をしているだろうという自覚はあった。
顔の筋肉が自分の思う通りにならない。
若林もそれは分かっているのだろう、しきりに目を逸らそうとしている。
しかし、目を逸らすことは許さない。
逸らした瞬間、このまま無理矢理にでも抱いてやる。
視線にメッセージを込めた。

は黙り込む。

若林が何か言うのを、待っている訳ではない。
試合のときと違って、情けない顔をしている若林に何が言える?

答えなど、期待してはいけない

言葉を返されることは、俺たちの関係が完全に崩壊することを意味する。
自らけしかけた破滅。
けれど、少しでも
―――このまま。
怒りながらそんなことを考えている自分が、心底可笑しい。
どこか狂っているんじゃないか?

 

結局。

 

沈黙を破って、終焉を引き寄せたのは、俺だった。

 

 

 

 

「……お前なんか、好きじゃない。」

 

ポツリ、と吐き捨てたのは、そんな嘘。
嘘でも『嫌い』と言えない自分が情けなかった。
ふと、目の前が揺れる。

―――ああ、ついでに若林の表情まで揺れてしまっている。

 

「お前なんかを、愛しいと思うはずがない。」

 

偽りは口にする度、傷を抉る。

 

「お前なんかに、触れたいと思うはずがない。」

 

耐えるように右手に力を込めた。

 

「お前なんかと、共に居たいと思うはずがない。」

 

語尾が震えて、不自然な発音になる。

 

「お前なんかの、笑顔が見たいなどと思うはずがない。」

 

息を吸った瞬間、喉が音を立てた。

 

「抱きたいなどと―――思って良いはずがない…ッ…!」

 

 

 

 

言葉を外に出そうとすると、裂けそうなほど喉が痛む。
あまりの苦しさに若林の喉を拘束していた右手を離すと、彼は前のめりになって俺に倒れこんできた。
力が完全に抜けているのだろう。
ずしりと身体にかかる負担を、力の限り抱き締める。
若林は逃げるでも抵抗するでも受け入れるわけでもなく、ただ、俺の腕の中に収まっていた。

 

つらい

 

思わず泣きそうになって、若林の肩に顔を埋める。
望みがないのなら、さっさと拒絶してくれれば良いのに。
この男は何を考えているのだろう。

 

「……分かんね……。」

 

俺の考えを見透かしたかのようなタイミングで、若林がポツリと呟く。

 

「好きとか、嫌いとか。そーゆーの、良く分かんねぇ。」

 

さっきまで貝のように口を閉ざしていたのに、突然、ゆっくりではあるが話し出す若林。
考えて喋っている訳ではないようだ。
感じたことをそのまま、独白のように呟いている。

……ということは、これは若林の本音。

耳を澄ます。

 

「抱くとか、抱かれるとかってのも分かんね。分かるけど分かんねぇ。お前のこと、尊敬してるし、大好きだけど、この感情をなんて表して良いのかさっぱり分かんねぇんだ。」

 

とりあえず、軽蔑されているわけではないらしい。
心のどこかが安堵で緩む。
けれど、若林は受け入れてくれると言う様子でもない。
突然のことに混乱しているのだろうと予測はできるが、いつまでも引き摺る男だろうか。
そんなに頭の回転が遅い男とは思えない。
戸惑っているだけなら、少し動いてみてくれても良いものを。
若林は俺にされるがままで、いつも何かに耐えるように握られている両の拳も、だらりと地面に向かって落ちていた。
何の反応もない。

 

 

 

 

 

なぁ、若林。

 

お前は今、何を考えている―――

 

 

 

 

 

 

 

 NEXT......

 


終わってもいい。
そんな風にどこかで思っての行動だったのかもしれません。
想う事に疲れて。でも諦められるはずもなく。
洗いざらいぶちまけて、終わりにしてしまおう。
そんな風にシュナは思っていたのかも。
けれど肝心の若林くんは、答えをくれない。
動くに動けず、諦めようにも諦めきれず、今かなり辛い状況なハズ。
決着まで。
あと、もう少し。