+ Eifersucht +  act:5 G-Side【拒絶拒否


――― こんな奴、知らない。

 

 

好きとか嫌いとか。
そう言う次元にいないと思っていた。
当てはまる訳がないと思っていた。
全てが俺より上で。
涼しい顔して何事もそつなくこなす。
難を言えば、遅刻が多いくらい。
それでも周りに合わせるんじゃなくて、周りを自分に合わせていく、気持ちの良いくらいの傲慢さ。

だから。

 

―――こんな、感情を露にしたシュナイダーなんか、俺は知らない。

 

 

 

胸倉を掴む右手は、一向にその力を緩める気配すらない。
怒りで上気した顔は見物だと思うが、その迫力に圧されるだけで笑えなかった。
目を逸らすことは許されない。
逸らした瞬間、きっと、噛み付かれる。
そんな理由もない恐怖感が、知らず胸に沸いた。

シュナイダーは黙っている。

俺が何か言うのを、待っているのかもしれない。
試合のときのような
―――いや、それ以上の眼光を称えて、じっと俺を見据えている。
言葉を強制されているかのような圧迫感。

けれど、言葉は俺の口から出てこなかった。

まるで、ドイツ語を話せなかった3年前の様に。
頭の中に浮かんでは消えているのは、すべて日本語だ。
……ドイツ語に変換できない。

 

俺が少し気圧される感じで、2人睨みあったまま。

 

重すぎる沈黙を破ったのはやはり、シュナイダーだった。

 

 

 

 

「……お前なんか、好きじゃない。」

 

ポツリ、と捨てたのは、そんな言葉。
けれど、シュナイダーはひどく辛そうに顔をゆがめている。
憤怒を象った表情の中で、唯一、蒼い瞳が揺れていた。

 

「お前なんかを、愛しいと思うはずがない。」

 

シュナイダーは続ける。

 

「お前なんかに、触れたいと思うはずがない。」

 

右手に不自然なほど、力が込められていた。

 

「お前なんかと、共に居たいと思うはずがない。」

 

語尾が、少し震えている。

 

「お前なんかの、笑顔が見たいなどと思うはずがない。」

 

ヒュ、と彼の喉が鳴った音が聞こえた。

 

「抱きたいなどと―――思って良いはずがない…ッ…!」

 

 

 

 

痛々しいくらいの叫びをシュナイダーが吐き出した、その刹那。
俺の喉を圧迫していた力が消えた。
半ば放心していた俺は、支えを失って前に倒れこむ。
正面には……当然のごとく、シュナイダーがいた。
俺はそのまま彼に抱きしめられる。
肩口に顔を埋められているから、その表情は見えない。
けれど、背に回された腕には、何かを訴えるかのように力が込められていた。
シュナイダーの指先が、背中の肉に食い込んで痛い。

 

けれど、本当に痛いのは背中なんかじゃなく。

泣きたいくらいに苦しいのは、きっと、拒絶なんかじゃない。

だけど。

 

「……分かんね……。」

 

呆然と呟いた言葉は、辛うじてシュナイダーの耳に届いたみたいだ。
密着した身体が、ピクリと微かに動く。
そんな反応を確認すると、俺は更に言葉を紡ぎだした。

 

「好きとか、嫌いとか。そーゆーの、良く分かんねぇ。」

 

忘れていたドイツ語が、突然、頭の中に戻ってくる。
すらすらと溢れ出すそれは、俺の意思とは別のところで動いているようで。
止まらない自分の口が、少し怖くなる。
けれど、独白に近い言葉は、止まることなく流れ続けた。

 

「抱くとか、抱かれるとかってのも分かんね。分かるけど分かんねぇ。お前のこと、尊敬してるし、大好きだけど、この感情をなんて表して良いのかさっぱり分かんねぇんだ。」

 

性欲を伴う好意を抱かれていることに対する嫌悪は、可笑しいくらいにない。
けど、嬉しい、と素直に思えるわけでもない。
本当に分からないんだ。自分がどう思っているのか。
ずっと前から考えてきたような気もするけど
―――答えはいつも曖昧で、形を作らない。

逃げて逃げて逃げて。

無意識に知らない振りをし続けた。
それは俺の罪だ。

だって、こんなに形振り構っていられないくらいにシュナイダーを追い詰めたのはきっと俺。
そう考えると苦しくて苦しくてたまらない。
息さえ吸えない。
でもそれが、罪悪感から来るものなのか、それとも別の感情から来るものなのか。
それすらも分からなかった。
自分の感情を自覚すればするほど混乱するだけで、解決の糸口が見つからない。

 

 

 

 

 

俺は。

 

こいつを抱き締め返しても、良いのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 NEXT......

 


一気に考えすぎて、どうにもならなくなっています。
拒絶と言う選択肢は既に切り捨てているのに、
受け入れる決心をするのを躊躇っている。
常識人だから、それに外れることに恐怖を感じているのかも。
けれどシュナを失いたくないし。
ここで離したら全て終わりだと、何となく感ずいてる。
だから悩んで。悩んで悩んで。
あと、もう少し。