+ Eifersucht +  act:3 仕事師【唯一無二

 
 

ただの幼い 友情の独占欲だと思っていたのに。

 

 

明日は大事な大事な決勝戦。
得点王の期待もかかるシュナイダーは、そんなプレッシャーも全く感じていないような相変わらずの無表情で淡々と練習をこなしている。
そのシュートは正確無比で、外す方が稀だ。
強引とも言えるドリブルも、テクニカルなフェイントも、奴さんは簡単に操って見せる。
チームメイトの中でも、その出来栄えには感嘆の溜息をつきかねない、まさに「若き皇帝」と呼ばれるに相応しいプレイ振りなのだ。
無口なせいで近寄りがたい雰囲気があるのも、彼のカリスマ性を増長しているといって良いだろう。

 

故かシュナイダーはあまり群れなかった。

 

せいぜいシェスターと戦術の相談をするか、マーガスに話し掛けられて適当に相槌を打っているか、もしくはミューラーに頼まれた練習の際に二言三言話すだけのように思える。
長い付き合いであるワシと一緒にいる時でさえ、ベラベラと話すことはしない。
まぁ、沈黙が苦痛じゃなくなっているって言うのもひとつの要因ではあるんだが。
表情にも出ずらいから、時々何を考えているのか分からなくなる。

 

そんな皇帝は、3年前に東洋から来た異国人を、大層気に入っている。

 

直接ヤツから聞いた訳じゃない。
けれど、普段の態度を見ていれば他のチームメイトとは異なる絆を育みたがっているのは明らかで。
他人に無関心なシュナイダーが珍しい。
ただの物珍しさにゲンさんを気にかけているだけだと、初めは思っていた。
事実、シュナイダーは必要以上に近付いたりしなかった。
練習の後の特訓に付き合う程度で、大した好意も示していない。
優れたGKとして、ヤツはゲンさんを買っているのだ。
そう思っても不思議はなく、むしろ自然だった。

 

 

そして月日は流れる。

 

 

ワシと、ゲンさん、そしてシュナイダーは国内で負け無しの最強トリオになっていた。
獲った優勝カップの数なんていちいち覚えていられないほどに、勝ち続けた。
シュナイダーがバイエルン・ミュンヘンに移籍してしまうまで、ワシ達
―――ハンブルグJrユース―――は確かに、最強だった。
シュナイダーを送り出す最後の全日本戦も、ハンブルグでの皇帝最後の試合に相応しく、大差で勝利した。
勝つことが当たり前だと思われていた中での、大勝はやっぱり心地が良い。
下馬評をひっくり返して勝つ、というのも乙なもんだがな。

 

しかしそこで、気付いてしまう。

皇帝が真に欲しているものが何か。

近くて遠い、届きそうで届かない。

手に入れたいのに、手に入れた途端に全てが破綻する。

そんな、大切なもの。

 

「きたか!!」

 

「やっぱりきたか翼!!」

 

嬉しそうなゲンさんの声に、遅れてきた日本の10番が、彼がいつもいつも嬉しそうに話していた「オオゾラ・ツバサ」だと知る。
確かに常人とは異なるオーラを発しているように思える。
しいて言えば、シュナイダーのそれと同質のもの。
強力なライバルの出現にウチの皇帝はさぞ喜んでいるだろう。

 

そう思い込んで、ヤツの表情をからかい半分に盗み見たのがいけなかった。

盗み見たシュナイダーの無機質な表情の中で、碧い瞳だけが静かに燃えているのに驚く。

そこに浮かんでいるのは、ライバル出現に対する歓喜ではなく。

 

 

 

昏い、昏い、闇の色―――殺意を含む、激しい嫉妬。

ただ、それだけ。

 

 

 

後悔した。

そして自分の浅はかな行動を呪った。

気付かずに―――いや、気付かぬ振りをして―――いれば良かったのに。
うっかりと見てしまったその表情は、シュナイダーが元の無表情に戻ってからも頭から離れることはなく、ここに至るまでずっとワシの脳裏に焼きついている。
あれほどの激情を表に出したシュナイダーを、見たことがなかった。
怖いくらいに何の感情も浮かんでいない整った顔の中で、二つの瞳だけがヤツのこころをはっきりと映している。
自虐色の強い、憎悪のような感情。
見て見ぬ振りを出来るようなシロモノじゃなかった。

深く、静かに。

シュナイダーの中には、確実に闇が巣食っている。

 

 

 

「幼なじみ失格ぜよ…。」

あんなに追い詰められるまで、気付かないなんて。
気付いたところで何をしてやれるわけでもないが…それでも、悔しい。
長く傍にいたはず。学校でも練習でも、ヤツの傍にはワシかゲンさんくらいしか近寄っては行かなかった。
孤高の皇帝が絶対の孤独の中で手に入れた、ほのかな恋心にさっさと気付いていれば。
しかし…気付いて、どうなったんだろうな。
それが分かったところで、ワシには何もできん。
せいぜい、愚痴を聞いてやることくらいしか、仕事はないぜよ。

それでも。

それが少しは捌け口になって、あそこまで昏い瞳をさせることはなかったかもしれない。

あんな……哀しい表情をさせることはなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日は大事な大事な決勝戦。
得点王の期待もかかるシュナイダーは、そんなプレッシャーも全く感じていないような相変わらずの無表情で淡々と練習をこなしている。
そのシュートは正確無比で、外す方が稀だ。
強引とも言えるドリブルも、テクニカルなフェイントも、奴さんは簡単に操って見せる。
チームメイトの中でも、その出来栄えには感嘆の溜息をつきかねない、まさに「若き皇帝」と呼ばれるに相応しいプレイ振りなのだ。
無口なせいで近寄りがたい雰囲気があるのも、彼のカリスマ性を増長しているといって良いだろう。

 

故にシュナイダーは孤独だった。

 

皆が見ているのは「若き皇帝」だ。
「カール・ハインツ・シュナイダー」じゃねぇ。
周りは「皇帝」の理想を押し付けて、それを強要する。
シュナイダーは常にそれに応え続けなければならない。
家庭の事情?体調不良?情緒不安定?
そんなもの、理由にもならねぇな。
ヤツは常に無敵でなければならないのだ。
シュナイダー自身もそれを望んでいる。
周りに期待されればされるほど、シュナイダーはそれに応えようとただただサッカーに打ち込める。
結果、それが親の名誉を守ることにも繋がっていた。
そこに日常はない。
いや。
サッカーこそがヤツの日常なのだ。
1つの例外もない。
なかったのだ。

確かに、3年前までは。

全てが狂いだしたのは3年前。
ひとつのイレギュラーによって、良くも悪くもワシ達は変わってしまった。
東洋のサッカー後進国からの留学生が、名門ハンブルグの正GKにのし上がるなんて誰が予想した?
ましてや、その未発達の少年に西ドイツが誇る若き皇帝が懸想するなど。
ありえねぇことだったんだ。

だからきっと、シュナイダー本人も戸惑っている。
自分の身に降りかかってきた出来事に、正しく対処できているのか、自信がないんじゃねぇのか?
だからアクションを起こさない。
すっと、耐えてきた。
ツバサの話が出ても、少し表情を硬くするくらいで聞き流した。
嬉しそうに笑うゲンさんにも、気付かせないくらいには感情を抑えてきていた。
実際、ワシだって知らなかったさ。そんなに切羽詰っているだなんて。

手遅れだ。

もう、どうにもできやしねぇ。

 

 

 

 

 

だから。

 

 

ゲンさん、気付け。

 

 

 

ずぅっと前から発し続けている皇帝の悲鳴に。

 

 

 

 

 

 

 

 

カールを、独りにしないでやってくれ……。

 

 

 

 

 

 

 

 NEXT......

 


カルツはどちらかと言えばシュナの味方。
壊れそうな幼なじみを放っておくことなど出来ない。
でも自分じゃどうにも出来ないから、
結局は他人(若林)頼りになってしまうのが悔しいけれど。