Constantine〜エルサレムの十字架〜 後編

 
 
 
 
 
コンクリートと夜空の境目がつかないほど闇に飲まれた街を、切れ掛かった街灯を頼りに歩く影が2つ。地下鉄のスモークがあちこちであがり、破れた紙くずが地面に張り付いている。
甘酸っぱいような不快を催す異臭が立ち込める街で、人の姿は見当たらない。その代わり、一寸先の暗闇に蠢く、何か。
危害をこちらに加えない限り、手出しはしない。それがエドワードとロイのモットーだ。エドワードの場合、ロイに出会うまでは、見つけたら祓うのが常だったが、彼によれば、中にはそうそう悪い者たちばかりではないという。
なにかと煩いので、最近は言うとおり大人しく見過ごしているが、だが気味悪さは拭えない。舐めるような眼差しに、睨みをきかせれば直ぐに小さくなるが、しかし一々牽制をかけてなど、やっていられない。
今すぐにも発砲したいのを、ロイが静かに首を振る。
 
「安心したまえ。下等なあいつらは、私たちに近寄ってはこれない」
 
「どうして?」
 
すると、ロイは艶かしげに笑う。
 
「おまえに、私の移り香が残っている限り」
 
「なっ・・・!」
 
「特別にしつらえたものでね、聖水から出来ている。私を抱いて、損は無かっただろう?」
 
その眼差しには、少なからずも今朝のことを暗に語っているのだろう。最初は誘いには首を振っていたのが、人生の倍を生きた大人の誘惑に敵うじはずがなく、流されるままにベッドに倒れこんだのは記憶に新しい。それからは無我夢中で覚えていないが、一生の不覚だったと今更後悔したところで遅い。
エドワードは赤くなる顔を必死に隠しながら、目的地へと急いだ。
 
「依頼人は、胸ポケットの白いハンカチが目印だ」
 
「ほう・・・、」
 
辿り着いた場所は、毒々しいネオンの看板が輝く裏道のクラブ。昼間であれば、廃ビルと見紛う外郭では、漏れる騒音を遮れ切れていない。おそらく、裏世界の人間の直属にあるのだろう、入り口には厳しい顔を構えた見張りが2人もいる。
 
「『ディア・エリシア』ねえ・・・クラブにしちゃ、洒落た名前だな」
 
エドワードはもちろんスルーして通ろうと思っていたが、案の定呼び止められてしまう。5フィートちょっとの身長で、もしその世界に詳しい人間でない者が見たらば、ただの風変わりな格好をした未成年でしかないだろう。エドワード=エルリックの名は、それこそ顔パス程の影響力を持つが、たまにこういう場面に出くわす時がある。
すると、ロイの出番がくる。
 
「"Sorry, sir. But it's not an allowed place to bring a kid."」
 
「"He is my partner, though....Well, this is for your drink."」
 
そう言ってロイはにっこりと笑い、見張りの手に紙幣を何枚か握らすと、エドワードの手を掴み、有無を言わさぬ強引さで店内へと入っていく。
アップビートのダンスミュージックが鼓膜を破りそうな大音量で、狭いクラブを揺るがす。地下へと続く階段で、ロイは辺りを見渡した。
だがエドワードはそんなのお構いなしにと、掴む腕を振り払った。
 
「ったく、オレはこういう役柄はごめんなんだよ。何が哀しくて『パートナー』だっての」
 
唇を尖らせる少年は明らかにプライドを傷つけられた様子だった。売り役が、相当気に障ったのだろう。
 
「文句を言わない。穏便に済ませるには、あれが一番手っ取り早いのだから」
 
階下では若い男女が派手な衣装と化粧を身に纏い、身体を絡ませるようにして踊っている。だが、こんな狭い空間では、皮膚同士が密着し合い、愛撫となんら変わりない。中には、性行為に及んでいるカップルも見られる。
ロイは目下の情景にふむ、と一つ唸ると隣でまだふて腐れているエドワードを振り返る。
 
「これ、R指定じゃないかね?」
 
顔を明らかに顰めるロイ。
 
「ここは一つ帰っておねんねしたらどうだ?今回は私が引き受けよう」
 
その台詞にむっとしたようにエドワードは反論した。ちらりと周囲を見渡したが、これで何度目の任務になるかはしれない。ロイと組む前にも、色々と世間の汚いところも見てきた。
この世界に足を踏み入れたときから、何も経験ゼロの初心な少年ではない。
 
「なに今更保護者ぶってやがる」
 
エドワードはロイの懸念を振り払うように、率先して人ごみの海へとダイブしていった。それを、どこか困惑した眼差しで追う男。
 
「キミは私の大事な息子みたいなもんさ」
 
「だいたい、自分の息子に性行為を強要する親がどこの世界にいるっていうんだ」
 
思い当たる節はいくつもある。最初にキスを強いられたのは出会ってから一ヶ月のことだった。初めこそモラルと欲情に挟まれ、ジレンマで苦しんだこともあったが、やがて彼の毒牙にかかり、まんまと飼いならされてこの始末。今ではキスやセックスは日常茶飯事。それで都合の良いときだけ、親ぶって説教されたのでは、たまったものではない。
 
「・・・ここに?」
 
「・・・このやろう・・・」
 
蠢き、犇めき合う人波を揉まれながら、どうにか一息ついたそこは人気の少ないカウンターだった。無人のバーを後ろに、一人異色の人物がいた。グレーのスーツにタイの締められたノリのついたワイシャツ。胸ポケットには、指示通りの白いハンカチが飾られていた。
 
「あんたが依頼人だな?・・・オレがエドワード=エルリックだ」
 
エドワードが手を差し伸べると、男は慌てたように振り返り、握手を交わした。
 
「ヒューズだ、マース=ヒューズ。よろしくな」
 
ヒューズと名乗る男は30代ぐらいの人好きのする男だった。ブルネットの髪と、眼鏡の奥で光る緑の瞳。そして何より無精ひげが彼の特徴だった。だが、その様子はどこか世話しない。神経質な様子でロイを見遣った。
 
「ロイ=マスタングだ。彼の優秀な助手兼パートナーを勤めさせてもらっている」
 
「そうか。こっちもよろしくな」
 
そして手短に握手をすませると、彼は声を潜めて打ち明けた。
 
「・・・実は、数日前から追われているんだ」
 
「誰に?」
 
「いや、あれは絶対に人の感じじゃなかった・・・まるで温かみが一切ない・・・まるで死人、いや死人なのかもしれねえ・・・。とりあえず、分かるのは人間じゃねえってことぐらいだ」
 
「動機は?」
 
「それがまったく心あたりがない。だが、大抵決まった時間にオレの元を訪れる。それが日増しにどんどん恐ろしさを帯びていっているというか・・・これはもう、人間の手には負えんと思ったんだ」
 
エドワードはロイに目配せをすると、匂うなと一つ頷いた。今度はロイが一歩前に進み出た。
 
「その、決まった時刻というのは?」
 
「ああ、きっかり午前5時なんだ・・・気味悪いったらありゃしねえ」
 
エドワードはロイを振り返る。
 
「どうだ?」
 
「キリストが死んだとされる日付が4月3日の正午」
 
「なら・・・、」
 
「だがそれはエルサレムにて、だ。時差も考慮にいれると、こちらでは丁度この時間帯になる。この時、聖なる力が弱まり、邪悪な者たちが活発化するのだよ。今日は折りしも4月3日・・・その線は強い」
 
「黒、か・・・」
 
「そういうことだ」
 
神妙な顔で話し合う二人に、余計不安が募ったのか、ヒューズは急かされるように横から口出した。
 
「一人娘と妻がいるんだ・・・この時間、オレは大抵家にいる。危ないことに巻き込みたくなくてな、だからあんたたちをここに呼んだんだが・・・娘と妻は無事だろうか?」
 
「それは分からない」
 
トニックウォーターをカウンターでオーダーしたエドワードは、だが残酷にもはっきりと答えた。狼狽する男を慰めるように、ロイが苦笑を浮かべながら言った。
 
「悪魔でもあなたに憑いているのか、それとも場所に憑いているかの二種類があるんだ。奥さんと娘さんは何も報告しなかったか?様子がおかしかったとか、」
 
「いや、それはなかった」
 
「ならば彼女らに憑いている可能性は低い。ただ問題はターゲットがその土地か、それともあなたか、」
 
「アンタじゃなかった場合、今ここでオレたちに成す術はない。大抵は現場に呼んでくれた方が最適なんだ」
 
出てきたドリンクで乾いた喉を潤して、周囲に立ち込める熱気に眉を寄せた。人ごみのせいか、スーツの身では堪えるほどに、周囲の温度は酷く暑かった。ロングコートに身を包んでいる彼なら尚更だ。だがロイは涼しげな顔で、エドワードの差し出したドリンクをやんわりと断った。
出身が軍部なのだ、やはり並大抵の訓練を受けてはいないのだろう。
 
「その、娘さんというのは・・・」
 
「あ、あん?」
 
ロイが優雅な仕草で振り返って、ヒューズをひたと見据える。
 
「―――美人かね?」
 
妖しく輝いた黒曜石の瞳に、今すぐにでも拳を振り上げたいのをぐっと堪え、男を押しのけると呆気に取られているヒューズに、気にするなと言い捨てた。
 
「危害を加えられたことは?」
 
「・・・よく分からないが、あれに会った後は酷く疲れる、まるで生気を抜かれていくような気分なんだ。それに、明らかに好意とは違ったものを感じる。殺意かもしれねえ」
 
「そうか。・・・だが、それは気分じゃなくて、実際に抜かれているな」
 
エドワードは男の削げた頬と窪んだ眼球を観察しながら言った。悪魔に憑かれた者は、大抵彼と同じような症状を訴える。そして、特徴的な隈、それは恐怖に夜もおちおち寝ていられていない証拠だ。
 
「そろそろ時間だ」
 
懐中時計で確かめたロイが告げる。エドワードは懐の二丁拳銃に手を伸ばし、敵の到来を静かに待った。カウンターに置かれたグラスが、店内の音楽に合わせて静かに振動する。
この感じ、エドワードは何度も経験していた。間違いない、やってくるのは闇を棲家とする者の一人。
エドワードが気配に全意識を集中させて、銃口を向けたそのとき、店内の電源が突然全て落ちた。
 
「、っ?!」
 
女性の甲高い叫び声を皮切りに、店内は大混乱に陥る。だが、狭い店内に非常通路が確保されているはずなどなく、その場は壮絶な惨状だった。踏み倒す者、蹴飛ばされる者、そこに助けや叫びが入り混じり、エドワードたちは呆気に取られるしかなかった。人波に飲まれぬよう、カウンターにしがみつくのがやっとだった。
 
人の姿もまばらになった空間に、一つだけ異様な空気があった。それは、入り口の階上から静かに近づいてくる。
のしのしと言った擬音語が似合うほど、それはゆっくり、だがその存在を強く主張しながらゆっくりと降りてくる。
その姿は影と称して間違いなかった。人の形とも、魔の形とも似つかない。だが、邪悪な気だけは確かだった。
少しずつこちらに目標を定めて距離を縮めてくるそれは、構えるエドワードの間合い、一歩手前で突然止まった。
静寂が重く横たわった。いくら気配で相手が分かろうとも、しかしこう暗いままでは、動きにくい。
 
「・・・おい、灯りあるか?」
 
エドワードの低い声に、慌ててヒューズはポケットからライターを取り出すと、かちりと火をつける。
灯りがエドワードの視野を照らし、そして例の物体、否、不恰好な姿勢で佇む俯いた人を映し出す。
エドワードが顔を顰めると、それはにゅっと顔を上げる。それは不気味な顔で笑う依頼人のコピーそのものだった。
 
「なっ・・・!」
 
エドワードが驚くよりも早く、それの首は凄いスピードで伸びてくる。
 
「くそっ!」
 
数弾発砲すると、それの攻撃を避けるように床に転がった。そして最寄の柱に身を潜めると、不意打ちに上がった呼吸をなんとか整え直した。
 
「一体、どうなってやがる・・・!」
 
気配で感じる、まだあの化け物は、瞳孔の見開いた双眸でこちらをじっと見つめている。
 
「・・・ドッペルゲンガー・・・!」
 
ロイが固唾を飲み込んで、その背にヒューズを庇いながら後じさりをする。その名前に呼応するように、それはぐるんとそちらに目標を定めた。
 
「なんだそりゃ?!」
 
「ドッペルゲンガーとは見る者の心の弱みを具現化する悪魔だ。本来は彼自身でどうにかして欲しい問題だが、当人がこんな様子ではな・・・」
 
肩越しに振り返った男は、恐怖にがたがたと震えている。まともに口も利けるような状態ではないのは明らかだった。ロイは、ヒューズが化け物と目が離せないでいるのに、慌てて彼の目瞑らせた。
 
「彼が使えない以上、私たちが克服するしか他ない」
 
化ける根源を失った化け物は、もう一度ヒューズの瞳をこじ開けさせようと、ロイに標的を定め襲ってくる。
ロイはしかしそれに物ともせず、躊躇いもなく数枚を聖書から破り取ると、伸びる首、目前まで迫る顔に押し付けた。
吸い付くように張り付いたそれに、化け物の顔面の焼ける匂いが立ち上った。
 
「主よ。この哀れな魂に、裁きのサルヴェーションを」
 
叫び声を上げながら、ひた、と動きを止めたそれに、ロイは口の端をにっと上げた。
 
「聖水をたっぷり染み込ませた聖書だ。ありがたく拝読したまえ」
 
今だ、とロイが声を上げるより早く、物陰から飛び出したエドワードは、化け物の心臓向かって銃を打った。銃弾が化け物を貫くや否や、文字通り断末魔の叫び声を上げると、それは銃弾を受けた場所からじわじわと炭化していき、やがて崩れ去って足元に灰の山を残した。死してなお、その拷問を辞めなかった聖書のページは、やがてひらりと、まるで天使の羽のごとくそれの上に舞い落ちた。
店内の電灯に、ふっと電源が戻る。照らされたそこに、もはやあの化け物の姿も気も残っていなかった。
 
「やったか?」
 
エドワードは銃を懐に仕舞う。ロイは聖書を閉じると、足元の灰を貶す瞳で見つめた。
 
「・・・みたいだな」
 
すっかり人の姿のなくなった店内に、エドワードは肩を竦めて、改めて周囲の惨状にため息をついた。
すると、静寂を打ち破る拍手が背後で起こった。2人は怪訝そうに振り返ると、そこには人を食ったような笑みで立つヒューズがいた。
 
「いやー、噂に違わずアンタたち、実にいい腕だな。・・・少々、試させてもらったぜ」
 
「なっ、どういう意味だよ、それ?!」
 
「・・・やはりな」
 
「やはりなって、おい大佐。アンタ知ってたのかよ?!」
 
掴みかかるエドワードに、ロイは呆れたように首を振った。
 
「だいたい、初対面でおまえの外見を見て驚かない依頼人なんて、ゼロに等しい。だが、今回のあの落ち着き払った反応・・・その時点で怪しいと思っていたんだ。事前にこちらのことを調べた形跡がある、とな」
 
「どういう意味だよ、それ」
 
「『巷で噂になっている悪魔祓いのエキスパートが、まさかこんな小さな少年だっただなんて・・・・・』」
 
「、だあっれが超ウルトラスーパージャンボ豆粒どチビだぁああっ?!」
 
「おやおや、そこまで言ってないがね。嘆くのは勝手だが、そうそう自分を悲観視するのは良くないぞ?」
 
きーっと声を上げてエドワードは反論するも、ロイの視線よりもずっと下にあるこの身長では、軽くあしらわれるのがおちだった。
それに余計ムキになる少年に、ロイは手馴れた様子ではいはいと受け流す。果ては、その頭を撫でる始末。
一抹の不安を隠しきれていないヒューズに、ロイはエドワードを背後に追いやって営業スマイルを浮かべる。
 
「なに、いつものことだ。心配には及ばない」
 
「お、おう・・・」
 
ヒューズは改まったように咳払いを一つ、それからカウンターの椅子に座った。
そして、懐から航空券を2人分取り出すと、カウンターの上に出して見せた。エドワードがそれを睨み付ける。
 
「・・・イスラエル?」
 
「そう、あんた達には中東に飛んでもらいたい」
 
「―――エルサレム、だな?」
 
ヒューズはロイの言葉ににっと口の端を上げながら、煙草に火をつけた。
 
「鋭いな、おまえさん」
 
「エルサレムはキリストが死んだ土地ともされる、聖域だ。また、堕天使ルシファーが落下した場所の対極にある。地獄からの抜け道と共に、天へと昇る道があるとされる。用があるとするなら、そこしか思い当たらない」
 
「・・・面白い」
 
「これでも、一応は彼の参謀も務めているのでね」
 
ロイは意味深な笑みを浮かべると、挑発的な眼差しをヒューズに向けた。おそらく、牽制のつもりなのだろう。本当に食えない男は、こいつの方かもしれない―――ヒューズは喉の奥でくくっと笑った。
 
「まあいい。実はな、とあるお偉い司教様が、エルサレム巡礼に近々出かけられるそうだ。だが年も年だからな、邪悪な力と太刀打ち出来るような法力は残っちゃいない・・・そこで、あんた達のようなボディーガードが必要なんだ」
 
その話にエドワードとロイは吟味するように、お互い顔を見合わせていた。
 
「報酬もたっぷり出る。悪い話じゃねえ・・・どうだ?」
 
「その、マース殿は、」
 
「ヒューズでいいぜ」
 
「・・・ヒューズさんとやら。アンタ、一体何者だ?」
 
すると手ごたえがあったと確信したのか、ヒューズは可笑しそうに笑うと両手を広げてみせた。
 
「オレが聖職関係者に見えるか?・・・こういった仲介役を生業にしている、所謂ブローカーみたいなもんさ。あとは、この店のオーナーぐらいなもんだな」
 
「ア、アンタが?」
 
「おうよ。でなきゃ、こんな惨事ただで済むわけないだろ?ったく、派手にやってくれちゃってまあ・・・」
 
頭を掻きながら店の有様に愚痴を零すも、その表情に焦燥の色は全く浮かんでいない。そこに、男の底知れぬ裏を感じ取って、エドワードは苦笑を浮かべた。恰も、これぐらいで彼の経営が崩れることがないと確信している態だ。
これは断わらないのが身のためかと、エドワードは身を乗り出した。
 
「その話、信用できるのか?」
 
「カミサマに誓っても」
 
その返事が気に入ったエドワードは、ロイの意見も聞かずにカウンターの航空券を手に取った。
ロイはどこか躊躇っている様子だった。ヒューズは揶揄するように尋ねた。
 
「おまえさんはいいのかい?」
 
「怪しい匂いがする。・・・それも極上のな」
 
「ほう、それで?」
 
ロイはそこで諦めたように肩を竦めると、エドワードをそっと柔らかな眼差しで一瞥した。
 
「だが、仮にも彼がオーナーなのでね。一介の従業員は、ボスの指示に従うのが相場と決まっているんだ」
 
そしてロイも自分の航空券をコートの下に仕舞う。
その様子に、ヒューズは興味深げに眉を動かした。彼らの間にあるのは、ただの上司と部下、ましてや恋人同士といったものだけではない。もっと深くて、哀しい何かを、彼の黒い瞳に見つけたような気がしたのだ。
 
「ま、それに金欠であることは否めないしな」
 
「そうそう、この世界の仕事に就いている時点で、危険は覚悟の上だっての」
 
「それも、そうだな」
 
ヒューズは彼らに依頼人が目的地で落ち合うことを告げて、店を立ち去る彼らに手を振った。
 
「ああ、そうそう。今回の報酬は指定の口座に振り込んでおいた。次回も、同じ口座でいいな?」
 
「ああ、構わないぜ」
 
エドワードは後ろ手に手を振ると、得意そうに店を横切って、そして斜め左後ろをついてくるロイを振り返った。
その様子に、ロイはどうしたのか、という仕草で小首を傾げた。
 
「その・・・、・・・かった」
 
「は?」
 
「・・・だからっ!今日は助かったって言ってんだ!!」
 
するとロイはきょとんとして、そして可笑しそうにくすくすと笑う。
 
「どういたしまして」
 
「それから、聖書も・・・意外と使えるもんだな」
 
「それはどうも」
 
「っ、それだけだ!!だからってオレは聖書に頼ろうだなんて思っちゃいないし、おまえのコレクションだって、まだ許せたわけじゃない!!」
 
「はいはい」
 
ぶっきらぼうな言葉でも、人一倍照れ屋な彼の最大級の褒め言葉に、ロイは自然と笑みが浮かぶのを止められない。
それにエドワードは「言わなきゃ良かった」と、耳を赤くしながら小さく呟いた。
 
「ところで、再三お尋ねするが」
 
ロイは去り際、カウンターに座り煙草を吹かすヒューズを振り返る。どこから吹き込んだ夜風に、コートの裾を静かになびかせ、流し目で彼を見つめる。
 
「―――そちらの一人娘というのは、美人かね?」
 
言葉よりも何よりも先に、エドワードの銃弾が彼の髪を切って掠めたのは言うまでも無い。
 
 
 
 
 

END

■ お礼コメント ■

紅櫻のkaiさまから頂きました!
ん?正しくは物々交換?
私がコンスタンティンを見てエドロイで変換していいですよ!!とか言い出したモンですから、
イラストを捧げたら素敵な小説が返ってきました(神!)
もーね、この明朝体(笑)のエロティックさがだいすきなんです。
すごいすき。素敵。格好良い。
私なんかが貰っていいのかな?って思うくらいの素晴らしさです。
でも貰います。くれるって仰るんだもの!

kaiさまありがとうございました〜vv
またエドロイ話に花を咲かせましょうねv