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トラブルメーカー |
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昨日の夜、恋人に付き合わされた体はまだ休息を望んでいる。
「若林く〜ん!」
ここ、ドイツでは聞くことが少ない日本語で若林を呼ぶ声。 幻聴が聞こえるほど自分は疲れているのだろうか?自問自答をするが、疲れているのは事実だがそこまででは無い…はず…。そう思うのに幻聴は更に聞こえる。
「若林くん!」
自分が思うより疲れているのかもしれない。先ほどよりも近くに幻聴が聞こえる。今日の練習は速めに切り上げて帰って寝よう。そう決めて歩く速度を上げる。
「若林くんってば!」
嗚呼、幻聴だけでなく幻覚まで見るなんて…。相当疲れている。学校も休んだほうが良いかもしれない。はっきり見える翼の幻覚(若林が覚えている彼よりも成長している)に背を向けて自宅に帰ることにする。
「キレイに無視しないでよ。も〜!!」
幻覚が若林の腕を引っ張る。そのはっきりとした感触に眠気が吹っ飛ぶ。 「つ、翼?」 「そうだよ!無視するなんてひどいよ。」 「本物?」 「当たり前だよ。幻覚でも生霊でもなく<大空翼>本人!」 幻聴でも幻覚でもないことは分かったが、翼本人がここにいるのは分からずきょとんとあどけない表情をしている。 可愛いなあ。と意識を飛ばしている場合じゃない。大事な用事を済ませなければならない。 「何でここに?」 至極まっとうな質問。 「徒歩と電車と飛行機と車で。」 にこにことお約束なボケ。 「そりゃそうだな。」 にっこりと笑顔で応じてくれる天然には通じない。気にせず翼は目的を遂行すべき話を続ける。 「立ち話もなんだし、ね。」 場所を移せと促す。 「ああ、そうだな。忘れてた、学校!!」 「せっかくドイツに来たんだからオレに付き合ってよ。」 ここまで来てさようならはあんまりだ。自分の突飛な行動は棚上げして若林にしがみつく。 「付き合うけど、連絡ぐらいしなきゃ不味いって。」 「携帯持ってるんでしょ?それで連絡すれば?」 「おお、賢い。」 いや、普通だって…。の一言は言わぬが花だ。 相変わらずどこか抜けてるんだよな〜。そんなとこ可愛いし好きだけどね。オレが来たことに驚いても良いんじゃないかな?驚かなくても喜んで欲しいんだけどね〜。つらつらと考えている間に電話が終わったらしい。 「よしっと。翼、どこ行く?」 時間は残りわずか。愚痴ってもしょうがない。さっさと目的をこなそう。大空翼は前向きな人間だった。 「あまり時間が無いんだ。公園で良いよ。」 そういうと場所も知らないのに若林を引っ張って走り出す。 「っ痛!もっとゆっくり走ってくれ。公園は…。そこ、右に曲がればすぐだ。」 急に引っ張らながらも律儀にナビする。
公園に着くなり、カメラを取り出し撮り始め典型的日本人観光客となる。その被写体は当然、若林。 「オレ撮ってどうする?景色撮れよ。普通の景色だけど…。」 「なに言ってるの。若林くん撮らないと意味無いよ!」 「?」 「良い?もう少しで全国大会が始まるんだよ。それに向けて気合を入れるには若林くんが一番効くの。こっち見て笑って!」 言いながらも手は休むことをしない。 「オレが効くって?」 県大会が近いのは元修哲連中から聞いているが、それに自分が効くがどう繋がるのか。本日二度目のあどけない顔だ。その顔、良い!フィルムを1本使い切ってインスタントカメラに切り替えた翼は心の中で絶叫しながら、シャッターを切り続ける。 「監督が怒鳴るよりも若林くんがこっちで頑張ってるのを知る方がみんなの力になるから。」 「いや、これじゃ頑張ってるの分からないだろう。」 公園で学校サボって制服のまま写真を撮られているのを頑張っているとは言わない。少なくともモデルでもなければ頑張っている状態ではない。 カメラ付き携帯に切り替えて更に撮り続ける。この画像は待ちうけ画面になること必須だ。
「君が笑顔でいる。それだけで頑張ってるってことなの。」
言いながら若林に近づきツーショットで撮る。 「小学卒業してすぐに見知らぬ土地に来て、言葉も違う習慣も違う、そこで学校に行ってサッカーして普通にしてる。十分だよ。更に笑ってる。君が頑張った証だよ。」 カメラにフィルムを入れながら翼が熱く語る。 「でも…。」 「すいませ〜ん。写真撮って下さい。」
通じないのを承知で散歩途中のおっさんにカメラをお願いする。ドイツ語に若林が訳してくれると思っているから平気だ。 快く引き受けてくれ「昔はカメラマンを目指したもんだ」と豪快に笑うおっさんにカメラを渡し若林と並ぶ。 おっさんが声をかけてシャッターをきる。
「君の笑顔が大好きだよ。」
そう笑いながら言えば、
「ありがとう。」
にっこりと笑顔で返ってくる。そのまま二人で笑いあっていたらシャッターを切る音がした。 「カメラマンとしては今の顔は逃せないからな。」 いい仕事をしてくれる。翼は自分の人選を胸中で褒め称え人差し指を立てもう一枚をアピールする。 おっさんはすぐにカメラを構えてくれる。 「若林くんv」 思いっきり抱きしめて頬にキスをした。 「…翼?!」 真っ赤になってわたわたと慌てる彼に平然と言う。 「挨拶だよ。」 「…今更?」 「慌ててたからきちんと挨拶してなかったでしょ?」 「そうだけど…。」 「今からブラジルの習慣に慣れなきゃと思ってね。」 「…そうなのか…。」 その間ずっとシャッターをきられ続けているのを若林は気付いていない。 おっさんに頼んで急いで現像して貰った。若い頃カメラマン志望で今も写真が趣味のおっさんを捕まえるなんて相当に自分は運が良い。感謝よりも自分を誉めるあたり申し子の性格が窺える。 現像された写真の一枚を日本から持ってきたフォトフレームに入れ適当にラッピングをする。更にもう一枚選んで同じようにフォトフレームに入れきれいにブルーの包装紙でラッピングをし若林に渡す。 「若林くん。これをオレに頂戴!」 「お前のだろう?」 「良いから!若林君から貰いたいの!」 ぐぐっと顔を近づけて声を強める。 「ほら、「翼、プレゼントだよv」って言って渡してよ!」 「ああ…。「翼、プレゼントだ。」」 「違う〜!そんな棒読みじゃなくもっと気持ちを込めてよ。はい、もう一回!」 自分勝手なことを言ってやり直しを請求する。 「そんな…。」 「良いから!もう一回!」 反論は受け付けない。 「翼、プレゼントだ。」 「うん、さっきよりは良いね。今度は笑顔もつけて、もう一回。」 「あのな…。」 「さっきも言っただろう。オレは若林君の笑った顔大好きなんだから。笑顔も一緒にプレゼントしてv」 笑顔で反論を封じる。
「翼、プレゼントだ。(にっこり)」
「ありがとう、若林くんvこれはオレからのプレゼントだよ。」 「ありがとう。」 「あと、こっちはいつも手紙に書いてあるシュナイダー君に渡して。」 先ほど適当に包んだものを若林に渡すと荷物を抱えた。 「それじゃ、もう飛行機の時間に間に合わなくなりそうだから。」 そういうとおっさんへの礼もそこそこに走り出す。 「翼?」 『あ〜、すいません。またお礼に伺わせていただきますが、急いでいるので失礼いたします。』 丁寧に頭を下げる若林におっさんはかまわないと豪快に笑って手を振ってくれた。それを確認してもう一度頭を下げて翼を追いかける。
さっさと車に乗り込もうとしていた翼に声をかける。 「本当に帰るのか?いったい何しに来たんだ?」 その質問が一番最後で良かったのか? 「今日は6月12日だから。」 わけの分からない理由だ。 「だから?」 「ブラジルの習慣に慣れなきゃと思ってだよ。」 そういうと完全に車に乗り込んだ。車の窓を開けて顔を出して別れを告げる。 「絶対全国制覇X3達成するから!そして国際Jrユース大会に行くよ!そこでまた会おう!!」 自信満々に言い放ち笑う。その顔は男の顔だ。驚く若林を残して申し子は日本に帰って行った。
言われたとおりに中身が何かも知らずにシュナイダーに頼まれたものを渡し、二人で確認したところ、ハート型の写真たてに翼が若林の頬にキスをしている瞬間を撮った写真が入っており当然二人は派手にもめた。 若き皇帝が今までは気に入らない奴程度だった大空翼を完全に敵視するようになったのも当然のことかもしれない。
後日若林はきちんとおっさんに礼を言いにお邪魔しに言ったときに 「恋人の日に会いに来てくれるなんて情熱的な恋人だな。」 と笑われ誤解を解くのに長い時間を掛けたが 「照れることは無い。」 と豪快に笑い飛ばされ誤解を解くのを断念した。
…End… |
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お礼コメンツ |
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またまたいのぽんさんから頂いていしまいました〜! 素敵萌え小説、ありがとうございました〜vv |
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