* 正しい犬の愛で方〜日本編〜 *

 
 

 

カッコイイなァって思うよ。

背は高いし、顔も悪くないし、ちょっと我が侭なところあるけど許容範囲だし。

けど、それ以上にさ。

可愛いって……思わない?

 

 

「翼くんもそう思ってた?実は、僕もそう思ってたんだ。」

「あ、やっぱり?さっすが岬くん!君なら僕と同じこと考えていると思ったよ!」

 

夕日が照らすグラウンドで、南葛ゴールデンコンビはにっこりと笑顔を浮かべている。
傍から見れば愛らしい外見をした少年が微笑みあっている姿は、目の保養であり、母性本能がくすぐられるというものだ。
しかし、実際見ているものはおらず、しかも2人の背後には何やら不穏な空気が漂っている。
2人の間に存在する空気は、爽やかとは程遠く、まだらの様な複雑怪奇なもの。
けれど翼と岬は一点の曇りも無い笑顔を浮かべている。
その妙な対比が更におかしな雰囲気を作り出していた。

「そう言えばさ、石崎くんが彼の家で飼っている犬に毎日のように落書きをしているようだよ。傑作だから一度見てみたらどうかな。」

「そうなんだ。さすが石崎くんだね〜。すごい度胸。それって挑発?」

僕らに対する。

とは双方の心の声。
表面上爽やかな笑顔を浮かべつつ、大好きな人の飼い犬に何さらすかコノヤロウ、と腹の奥底で憤っている2人だった。

 

そこへ、話題の中心である少年がやってくる。

 

「翼に岬。お前達まだ帰らないのか?」

深く被った赤い帽子から覗く、いつも鋭い眼光を称えている瞳は、今は柔らかく細められている。
それは、今までハードな練習メニューをこなしていた二人に対する労りの色でもあった。
自分たちに向けられる友好の視線に、2人はふふ、と含み笑う。
これは特権。
彼が認めた者へ送る、最大の愛情表現。
嬉しくて、くすぐったい。

「もうすぐ帰るよ。若林くんこそ帰らないの?一緒に帰ろうよ。」

温和な笑顔を浮かべて岬が言えば、若林は少し考えて、帰宅することを告げた。
でも途中で病院に寄らなきゃなんねーから、一緒に帰るのは無理かなーと残念そうに呟く彼に、翼が満面の笑みを送る。

「何言ってんの。付き合ってあげるよ。どうせ帰り道だし。」

ね。

と隣の岬に同意を求めれば、彼もうん、と可愛らしく頷く。
悪いな…と言いつつ、若林の顔は嬉しそう。
そんな若林の表情に、今度はゴールデンコンビが心底嬉しそうに笑うのだった。

 

 

談笑しながらの帰り道。
河原を通りかかったときに、3人の足元を後ろから前へ、小さい物体が素早く通り抜けていった。
そのくらいのことで思わずバランスを崩すような人間は、生憎と3人の中にいなかったが、驚きは隠せない。
駆け抜けていった前方を見てみれば、可愛らしい子犬が1匹、悪びれた様子も無くちょこんとお座りをしていた。

「あれ、子犬だ。」

「本当だ。首輪してないし、捨て犬かな?それともただ迷ってるだけかなァ。」

翼と岬がしゃがみこんで、突然現れた子犬を見つめる。
するとそれに応えるように、子犬はつぶらな瞳を2人に向けて、尻尾を思い切り降り始めた。
その様子はまことに可愛らしい。

「なかなか可愛い犬だね(従順そうで)

「ね、この表情が良いよね(馬鹿そうで)

にこーっと笑い合うゴールデンコンビの腹の内は見事に漆黒だ。
その気配を察知したのか、子犬は2人と間合いを取りながら、そそくさと後方に逃げていく。
嫌われちゃったかな?と肩を竦める翼と岬は、別段気にした風も無く。
元々あまり犬に興味を持っていない2人だから、子犬に懐かれようと嫌われようとどうってことはないらしい。
さすが自分が興味を持てること以外には、労力を使うのも馬鹿らしいという考えの持ち主たちだ。
その切捨てっぷりは見事でさえある。

さて、逃げた子犬はと言えば、今度は翼と岬の後ろで2人が子犬とじゃれる様子を微笑ましげに見守っていた若林の足元にまとわりつき始めた。
本能で犬好きな人間は分かるらしい。
もしかしたらジョンの匂いが、微かに残っていたからかもしれないが。
それはともかく、若林の方も子犬に懐かれて悪い気はしない。
フッと表情を緩めて、痛めた足を少し庇いながら子犬を撫でてやるべくしゃがみこんだ。

 

まぁ、その表情と言えば何とも言えない優しい顔で。

どれくらい優しい顔をしているのかと言えば、それを目撃したゴールデンコンビが、ちょっと子犬をそこの河に放り投げてやろうかなvvなどと恐ろしいことを口走りそうになるくらい。

 

翼と岬が発する暗黒オーラに、若林は全く気付かずに嬉しそうに子犬を撫でている。
子犬は気付きながらも、気付かない振りをして若林に撫でられている。
なかなか強かだ。
もしかしたら、意外にこの2人と1匹、似ているのかもしれない。

不穏な空気をそのままに、若林と子犬のじゃれあいは続く。
ひょい、と若林が子犬を持ち上げれば、子犬は心底嬉しそうに尻尾を振りまくった。
「可愛いヤツだな〜」と瞳を細めて笑う若林は、もう子犬に夢中だ。
翼と岬の存在も今は気にしていないのだろう。
いつも兄貴ぶっているところがある若林だが、今は年相応の笑顔を見せている。
楽しそうに笑う彼を見ながら、翼は隣で無表情に微笑んでいる岬へこっそりと耳打ちをした。

(……俺、思うんだけど。)

(うん。多分、僕も翼くんと同じこと思ってる。)

(だよね。あんな面白味の無い子犬なんかよりさぁ…。)

 

((若林くんの方が、ずっとずっと可愛いよね?))

 

ああ、やっぱり?

 

お互いが寸分違わず同じことを考えていたことに、2人はまた笑う。
凛々しい顔は、試合中いつでも見られる。
労りの表情は、練習後にいつでも見られる。
少し大人ぶった笑顔も、こちらが笑いかければいつでも見られる。
けれど、油断しきった優しい顔は、早々お目にかかれるものではなかった。
皆が頼りにする分、いつでも緊張している若林は、滅多なことで肩の力を抜くことは無い。
それは仲良くなった今でも同じ。
警戒心を抱かずに済む小動物相手に見せる笑顔は、やはり、自然に緩んでしまうだけあって、いつもよりも幾分幼い。
そう考えると、自分たちは信用されてないのか、とか、そんなに庇護を必要としているように見えるのか、とか、後ろ向きな考えも出てくるけれど、若林本人は無意識にやっていることだろうから、気にしないのが一番だ。

あの優しい表情を何の苦もなく引き出してしまう、そんな子犬に少し嫉妬はするけれど。

今はほんの少しだけ、感謝の気持ちの方が強いかもしれない。

 

夕焼けに、彼の笑顔は一段と映えていたから。

 

自分たちは忘れられているようだけど、それも気にしない。
子犬がちょっと優越感に満ちた表情をしているような気もするけど、きっとそれは被害妄想だろう。
だから、やっぱり気にしない。
今はただ、希少価値のある若林の屈託のない笑顔を眺めていようと、2人にしては珍しく、自然と若林に負けないくらいの優しい笑顔を浮かべていた。

 

しばらく若林と楽しそうに遊んでいた子犬だが、前方から走ってくる人物を発見して、そちらの方に駆けて行ってしまう。
子犬が駆け寄っていった先には同い年くらいの少年がいた。
白っぽい帽子を被り、そこから黒く長い髪をなびかせ、身に纏っているのはどうやらサッカーのユニフォームのようだ。
「勝手に走っていってはダメだろう」と、軽く子犬を小突いて説教をくれている。
それから、呆然としている3人の方に徐に歩み寄ってきた。

「コイツが世話になったな。礼を言う。」

帽子を取り、会釈程度のお辞儀をする少年に、一番近くにいた若林が慌てて答える。

「いや、俺たちはただ遊んでいただけさ。その犬、お前の?」

「あぁ…いや、そうという訳でもないが。俺が面倒を見ている。」

「?まぁ、とにかく飼い主が見つかって良かった。」

「……あんたは。」

「?」

「……いや、なんでもない。」

帽子を被った2人の間で繰り広げられる会話を、翼と岬はじっと聞いていた。
肌に突き刺さるような、このピリピリとした空気はなんだろう。
嫌な予感がする。
この少年とはこの程度の縁では終わらない―――そんな予感。
くしくもその予感は的中してしまうのだけれど。

「じゃあ俺はこれで。―――またな。」

「ああ……。」

再会を確信したような少年の別れの言葉に、若林は不思議そうな表情で、しかし、律儀に手を振る。
その後ろで、翼と岬は顔を見合わせて、困ったように可愛らしい顔を歪めていた。

「嫌な予感が現実味を帯びてきたよ、岬くん。」

「僕もそんな気がしてならないよ、翼くん。」

はぁ。

2人が同時についたため息に、将来SGGKと呼ばれ色々な人々によって神格化される少年は、また不思議そうに首を傾げるのだった。

 

 

そしてよみうりランドでの全国大会。
足の怪我により決勝戦のみの出場となった若林が会場にいなかった、準決勝第1試合ふらのvs明和戦。
翼を初め南葛のメンバーは、ふらの小の応援として客席にいた。
そして見つけてしまう。
窮地に陥った明和を救うべく、愉快な登場の仕方をしたゴールキーパーを。
彼はまさしく、あの子犬を迎えに来た少年だった。

 

「岬くん。彼は埼玉代表だよね?」

「そう聞いてるけど。で、僕たちは確か静岡代表だよね?」

「うん、そのつもりだけど。」

「……なんで埼玉県人が、静岡県人とあんな所で出会うんだろうね?」

「本当。若島津くんって人、おかしいんじゃないの。頭が。

「本当。埼玉から静岡までジョギングでもしてたのかな。ありえないよね。

 

あはははは。

 

そう小声で言いながら笑う2人を包むのは、明らかに不機嫌オーラ。
近くにいた南葛の選手達は、夏なのに冷えるこの場所は如何なものかと頭を捻っていたが、結局その怪奇現象の原因は分からず、後々話の種になったとか。

 

 

決勝戦で、若林が明和のゴールキーパーに対し「あ。」と思わず呟いてしまうのは、もう少し、後のお話。

 

 

 

…End…

* 言い訳後書き *

 
90000hits記念にいのぽんさまに捧げます「子犬と遊ぶ若林くんにメロメロな日本人」。
私の独断と偏見により、ゴールデンコンビ×若林風味となりました。
こっそりシマヅも紛れてますが。彼が何で静岡にいるのかとか気にしてはいけません。
退院祝いに子犬と一緒にきっとジョギングしてたんです。勢い余って静岡まで走ってきてしまっただけなんです
(超・ありえない)
というかウチのGC激しく黒でスミマセン…!よ、良かったのかな。すごいドキドキしてるんですけど。
この二人が揃うともう手が付けられません。真っ黒です。
漆黒の闇です。
でも見た目は可愛らしい少年達です。真っ白です。
純白の光です。
そんなちょっとオカシイGC、私の中では当然のように若林くんが好きです。大好きです。
彼に近付くものは友人だろうが、小動物だろうが、容赦せずに叩き潰す程度には大好きです。
ああ、世間さまと激しくずれている気がする。
いのぽんさま、受け取っていただけますでしょうか…!(超弱気)