シネマ

 
  

止めどなく流れる涙に、溜息が止まらない。

  

一ヶ月ぶりに暇が出来た。

そうしてすぐ、全くと言っていいほど連絡をしなかった恋人に、実に久しぶりに電話をした。

第一声は嫌味。

『お忙しい海馬クン?今更オレに何の用〜?』

しかし、話しているうちに態度は軟化。
最後の方はニコニコと笑っている顔が想像できるくらいに、弾んだ声で俺の問いに答えたりしている。
こういうやり取りも悪くない…とも思うが、声を聞いていたら、どうしようもなく会いたくなってしまった。

「今から迎えに行くからそこで待っていろ。」

何故居場所が分かるかだと?全く持って愚問だな。
城之内に持たせている携帯には発信器が付いている。
……勿論、ヤツもそれを了承している。恐らくな。

そうしていつものリムジンで迎えに行き、指定席ともなった後部シートに座らせ、自分もその横に乗り込む。
すると城之内は幸せそうに笑むのだ。

「オレさぁ見てぇ映画あるんだよな!」

俺の肩口に見た目の予想をはるかに裏切る柔らかな髪を埋めて、そう言って上目遣いでこちらを見つめる。
無意識なのか、確信犯なのか。
どちらでも構いはしない。ただ分かっていることと言えば、この顔の城之内の願いを俺が聞き届けなかったことがないと言うことだけだ。

成功率100パーセント。

すぐに近くの映画館に車を向けさせる。
貸し切っても良かったのだが…城之内がそれを許さなかった。

「オレら以外にもそれを見てぇって言ってるヤツが沢山いんだから、独り占めなんてしたくねぇ!」

二人占めだろう。

と言うツッコミを心の中でしつつも、城之内の優しさに顔がほころぶ。
いつもいつもお前は自分より他人を優先させる。
それが愛しく、しかし不安で溜まらない。
いつかお前は他人の為にその身を滅ぼすことになりはしないだろうか。
やけにリアルにその様子が想像できて―――本当に笑えない。
お前が死ぬときは、俺の側であって欲しいと切に願う。

 

映画は、良くある「感動モノ」だった。

何のことはない、先の見えるつまらない展開。
知らず、眉間に皺も寄るというものだ。
何故貴重な休みにこの様な下らん映画を見なければならないのか、全く持って不可解だ。むしろ不愉快と言っても差し障りはないと思われる。
城之内もつまらなさそうにしている……と思えば、ヤツはあろう事かホロホロと涙を流していた。
感情移入してしまっているのだろう。

映画の主人公と同じように泣く。
映画の主人公と同じように笑う。
映画の主人公と同じように怒る。

映画よりも城之内の方が見ていて愉しい。
そうして俺はツマラナイ映画よりも理解不能な隣の人物の一挙一動を観察することにした。 

 

ラストはとりあえずハッピーエンドのようだ。
それに城之内は強張らせていた身体をほっと映画館のシートに埋める。

―――しかし涙は止まらない。

 

「いつまでそうやってべそべそ泣いている気だ。」
鬱陶しくて敵わん。
ギロリと睨み付けてやれば、城之内は一瞬怯えたように身を震わせたが、すぐに「仕方ねぇじゃん!」といつも通りに憎まれ口を叩く。
そうしてまた俯いてボロボロと涙を流していた。

全く。
いつまで泣けば気が済む?
映画に感動しているヤツに掛けてやる言葉など、ハッキリ言って想像もできん。
慰め方も分からない。
頭を撫でてやれば、より一層褐色の瞳からは透明な雫が流れていく。
ただ隣にいることしかできない己の無力さが恨めしい。
あの映画でここまで感動できてしまう城之内に、ある意味尊敬の念すら抱いてしまいそうだ。

 

隣の城之内は壊れた玩具のように涙を零す。

止めどなく流れる涙に、溜息が止まらない。

久しぶりの逢瀬に泣き顔はないだろう、城之内。

 

外の景色は滞りなく流れている。
夜に入って街の様子が煌びやかに変わり始めているのに、車の中には未だ城之内の嗚咽が木霊する。
正反対な情景は俺を苛立たせるのに充分なはずなのに、上手く怒れない。
鬱陶しい、泣き声など聞きたくない、少し黙れ。
頭の中でグルグルと罵詈雑言が飛び交っているが、それは何一つとして外に出ることはなかった。
諦めたように腫れた目の下に口付けを落とせば、城之内は吃驚してぴたりと涙を止める。

―――何だ、こんな簡単なことで良かったのか。

もう一回。
顎を掴んで上を向かせ、反対側の目尻にもキスをする。
額、頬、鼻―――そして唇に。
甘んじてそれを受けていた城之内が次第にこちらに擦り寄ってきた。
コートをきゅ、と掴んで行きと同じように俺の肩口に頭を埋める。

涙はもう止まっていた。
残ったのは頬の通り道だけ。
その通り道も消せば、残るのはいつもより少し上気した城之内の笑顔。

「止まったか。」

「…おぅ、止まった。」

にか、と笑ってみせる城之内。
その行動が『愛しい』などと、言葉に出して伝えることは出来ないが……自分を包んでいる空気が穏やかになるのはどうしようもない事実。
鈍いコイツがそれに気付くかどうかは、また次元の違う話だ。

 

そうだ、笑っていろ。

泣き顔のお前を見るのはベッドの上だけで充分だ。

……?今更何を照れる必要がある。

全く見ていて飽きない生き物だな。

 

「今日は泊まって行くのだな?」

問えば。

「トーゼンだろ!」

色好い返事。

 

たまにはこういう雰囲気も悪くはない。

 

 

・END・

作者コメンツ

 
偽物…???(汗)社長ベタ惚れです。社長の一人称って書いていて楽しいのですが、難しくて…(涙)
自分元々口悪いので城之内君視点の方が書きやすいカモです。でも理屈っぽいので社長でもいけるはずなのですが…。はてさて。
のほほんとした感じが出てれば良いな〜と思うのですが。つか殆ど車の中の話ですね…(苦笑)