水面下の攻防  

 

 

その日空が創りだした夕焼けは、愛しい人の創りだす焔に酷似していた。

 

 

「おや、今日もこんな時間か。中尉、後どれくらいで今日の分は片付くのかね?」

中尉、と呼び掛けられた女性は寸分の乱れもない動作で立ち上がり、この東方司令部を異例の若さで治めている青年のデスクの前へ美しい姿勢で移動した。
青年はにこりと微笑む。
が。
彼女が凛と透き通る声で告げた現実に、我が耳を疑い、ひくひくと辛うじて笑みの形を取りつつ顔面を痙攣させてしまった。

 

「このままのペースですと、深夜までかかるかと思われます。」

「……事実かね。」

「残念ながら。」

 

では、と行きと同じように颯爽と去っていった彼女は、しかし、途中で足を止める。
来客用の椅子に今日は小さなお客様と大きなお客様がいたからだ。

 

「そんな訳で大佐は今日一日司令部に缶詰なのよ。急ぎの用でなければ、また明日来てもらえるかしら?」

 

申し訳なさそうに言うと、大きなお客様―――アルフォンスはわたわたとその大きな手をばたつかせる。

 

「どうぞお構いなく。こちらこそ、お忙しい中厄介事を持ち込んでしまって申し訳ありません。」

 

がしゃん。

頭を下げると鳴る音にも、東方司令部の面々は既に慣れてしまっていてむしろその光景は微笑ましい。
悪いわね、とリザが戻ろうとしたところで、今度は小さなお客様―――エドワードが口を開いた。

 

「今日は大した用もないし、帰りは大佐んちに泊めてもらうから俺は終わるまで待ってる。アル、お前はどうする?」

 

え、僕?といきなり話題を振られたアルフォンスは困惑したが、ロイの「是非ともおいで」と楽しそうに笑う声に負けて、「じゃ、もう少しだけ…」と遠慮がちに座り直した。

 

「そんな訳なんで中尉。」

 

はぁ、とため息をついたリザは、今回は負けかしらね、と形の良い唇の端に笑みを浮かべて兄弟を伺い見る。
今夜のプランを何だかんだと立てている二人は年相応に見えて大人をひどく安心させるけれど、裏で何を考えているんだろうと思っただけで背筋がぞくりとした。
子供に見えても、頭脳は大人を凌駕する勢いの二人だ。考える悪戯も実に高度。大人達はたまらない。

 
「大佐も気を付けてくださいましね。」

「…!私は寝てなどいないぞ!」

「……。」

 

これでは襲われるのは時間の問題かも。

 

私か、エドワードくんに。

 

 

  

END

作者コメンツ  
エドvsアイ×ロイだと言い張る。
深夜まで2人きりだと公言するリザさんに、それはさせじと大人に甘える子供を演じるエド。
何となく身の危険を感じ取って、アルを自宅に招待するマスタング。
アルは全部分かってて、それでもマスタングの愛情に飢えていたから思惑に乗っかってみた。
そんな感じの4人。分かりにく…。