愚者の戯言  
 

醜い。

醜い醜い。

 

吐き気がする。

 

 

いつもの場所。いつもの時間。いつものメンツ。
流れるのは嘘を誤魔化して、むしろ真実に近付いてしまった曖昧な瞬間の連続。
にこり、と微笑んだ男は何もかも見通した眼差しを投げかけ、俺たち兄弟を視線だけで拘束する。

「お仕事は良いんですか?」

アルがうずうずと投げかけた質問に、大佐はふと笑った。

「ああ、午前中頑張ったおかげで中尉から昼は外出の許可が出てな。やはり等価交換、と言うやつなのだろう。彼女は錬金術師ではないがね。」

わざとらしく片目を瞑って、微笑む。
アルはそれは嬉しそうに見えない瞳を輝かせていた。

 

俺たちが今いるのは、大通りから少し奥に入った見た目良いとは言えないこじんまりとしたカフェ。
大佐が見つけて以来、人の目を避けられると言う利点もあって外で食事をするときはこの店を良く使う。
全身鎧のアルが目立ってしまうことを大佐はもちろん、俺も気にしていた。
だから、食事の味なんて二の次。
不味くはないけど、特別美味しいと言うわけでもない。
切り分けられたフレンチトーストを口の中に頬張って、俺はさっさと胃に詰めた。

「こら、鋼の。食事は良く噛んで食べなさい。…そんなだから、」

背が伸びないのだよ。

目聡く見つけた大佐に小言と嫌味を同時に貰う。
「だぁれが豆粒ドチビか!!」とテーブルをひっくり返す勢いで詰め寄れば、涼しげに「食事中は静かにしなさい」と窘められた。
沸々と湧く怒りはまだ収まっていなかったけれど、これ以上反論しても余裕で返されるのがオチだ。
仕方無しに席に座り直せば、横からアルに小突かれた。

「兄さん、ボクだって言ってるでしょう。早食いは良くないよって。」

「……分かってら。」

「分かってるだけじゃなくて、実践しなきゃダメなんだよ。」

興味ないことには本当にずぼらなんだから。
大佐だけでなくアルにまで小言を貰ってしまった。
あーむかつく。
相手が正論を言ってくるだけに、こちらとしては返す言葉もない。
はぁ、とわざとらしく大きな溜息をついて食事を再開する。
しつこいくらいに咀嚼して飲み込んでやった。

そうすれば、

「よろしい。」

と、至極の微笑とともに優しい声色が降ってくる。
かぁっと顔が火照る感覚に見舞われるのは、毎度のことながら情けないと言うか、悔しいと言うか。
そんな俺の複雑な胸中も知らずに、29にしては童顔な男は楽しそうに笑うのだ。

「大佐といると兄さんがきちんと食事をしてくれるので、ボクも嬉しいです。」

おそらく微笑んでいるのだろう―――アルは大佐に向かって楽しそうに話す。
大佐もアルの言葉に笑顔を返した。
ますます楽しそうなアルは、もう大佐しか見ていない。

 

知っているんだ。

アルは亡くした面影を大佐に重ねている。

 

そんなのは虚しいと、惨めだと思った。
だってそうじゃないか。
大佐は他人なんだ、家族なんかじゃない。
血が繋がっていない、同じ時を共に過ごしていない。
母親なんかじゃない。
俺たちのことを息子だなんて思っているはずもない。

それでも、アルは大佐に求めるんだ。母であることを。

そしてそんなアルの姿は多分―――自分の姿を映した形だということも、俺は知っている。

だから余計に腹が立つ。
訳が分からない感情に支配されて、普段の冷静さを取り戻せない自分。
大佐が笑うだけで、こんなに嬉しいなんて。
いや、奴はいつも笑っている。
違う、そういう笑顔じゃないんだ。
時折、本当に慈しんでくれているんだと錯覚しそうになるほど、大佐は綺麗な微笑を浮かべて俺たちを見つめる。
止めて欲しいのに、止めて欲しくない。
もう、分からない。

分かっているのは今、自分が酷く醜い感情を抱いていると言う事だけ。
アルに?大佐に?
俺は嫉妬している。

仲間はずれで寂しいとか。

そんなレベルじゃない。

ふとした弾みで傷つけてしまいそうな、危うくて馬鹿みたいに切実な気持ち。

 

羞恥で死ねる。

 

「鋼の?」

「兄さん?」

同時に発せられたのはどちらも愛しくてたまらない音色。
どうしようもなくなって、テーブルに突っ伏した。

 

 

END

作者コメンツ  
妄想激しすぎだと苦言を頂戴しても仕方ない感じにエルリック兄弟+ロイ。
エドはアルのことを別の次元で大切にしつつ、大佐に恋心を抱いているといい。
二人が仲良くしているのを見てアルは嬉しくて微笑んでいられるけれど、エドは笑えない。ヤキモチを妬くなんて可愛いものじゃないくらいの嫉妬を抱いてしまう。そんな醜い自分が情けなく。
…私もテーブルに突っ伏しとこう…。