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桜の華がとっても綺麗だったから。
当然のようにキミを誘いたくなったオレタチ。
「うっわぁ……!」
ハラハラと舞う桜の花弁に、結人は感嘆の声を上げた。
見上げれば、まるで空を薄い桃色に染めるかのような見事な満開の桜。
キラキラと幼い子供のように瞳を輝かせて桜を見つめる結人を、一馬と英士は少し後ろから眺めていた。
勿論、彼らも薄桃色の奇蹟に感動していた。
しかし、目の前でああもあからさまに感動されてしまうと、自分たちの表す感情が陳腐な物に思えてならない。
「こんな事でこんなに感動できるなんて、結人くらいだろうね」なんて、毒づくことしかできなくなる。
それに頬を膨らます結人を何処か遠くから見つめていた。
一馬も興味なさそうにすぐに桜から目線を逸らしてしまう。
感動の薄い二人に結人はまた、面白く無さそうに頬を膨らませた。
「なーんか感動薄いな〜二人とも!こんっなに綺麗に桜が咲いてるって言うのに、言いたいことはそれだけなワケぇ?あーヤダヤダ!こんな二人より、風祭と見たかったな。きっと一緒に感動してくれると思うんだけどvv」
「「風祭?」」
最後だけ、うっとりと言った結人に対し、思わぬ名前に声がハモってしまった英士と一馬は、お互い苦笑を浮かべながら顔を見合わせた。
それに構わず、結人は続ける。
「だってさ、アイツってこういうの好きそうじゃん!桜見た瞬間から思ってたんだよね〜この桜、アイツにも見せたいって!」
まるで空を包むかのようにバッと両手を広げて、結人は桜を見上げた。
すると、それに応えるかのように桜がサワサワと優しく揺れる。
満足そうに笑う結人が見えた。
「確かに…実は俺もそう思っていたんだよね。」
この満開の桜の下の風祭は、きっといつも以上に綺麗だろうって。
「……俺も、ちょっと思った……。」
きっと桜以上に、風祭の笑顔は綺麗だろうって。
「なんだ、もしかして感動薄かったのってお前ら妄想中だっただけ?……でも俺もそう思ってたしなぁ。」
満開の桜を宿した風祭の瞳は、絶対に綺麗だろうって。
三人とも、考えていたことは結局同じなわけで。
アハハと結人の乾いた笑いと、フッと英士の自嘲気味な笑みと、ムッとした一馬のしかめっ面と。
何処かくすぐったい気持ちを持て余しながらも、三者三様に笑んでみせる。
桜が、笑うようにまた揺れた。
ピッ。
徐に結人が携帯の電話帳を検索し始める。
その様子を残りの二人は眉間に皺を寄せて見ていた。
―――将の番号を知っているのは、今の所、結人だけだったから。
ただし、英士も一馬も選抜の連絡網で自宅の番号は知っている。
しかし心配性の兄に持たされていると言っていた、将直結の携帯の番号は結人のみの知るところで。
微かな優越感が、結人に締まりのない笑顔をもたらしたのは言うまでもない。
RRR、RRR……
何度目かのコール。
もしかして都合悪かったりすんのかな?と不安に思い始めた6度目のコール。
その刹那、プツ、と相手が出る音がした。
『もしもし!』
急いだような声に、自然と口元が緩んでしまう。
それを英士が見咎めてコホン、と一つ咳払いをした。
やべっと慌てて携帯を握り直す。
「もしもし風祭?俺俺、若菜。」
『あ、うん、こんにちは。ゴメンね、洗濯物取り込んでて出るの遅くなっちゃった。』
洗濯物!?
「風祭は洗濯物も自分で取りこんでんのか〜偉いよな!」
同い年なのに家事全般をこなすこの少年に対し、結人は嘘偽り無い尊敬の念を言葉に込めた。
将は「そ、そんなことないよ!」と先程より少し声の音量を上げる。
きっと電話の向こう側では真っ赤に頬を染めて、反論してきているのだろう―――と容易に想像が付いて、結人はへらっと頬を緩めた。
が、また英士に冷たく見つめられて咄嗟に表情を引き締める。
「洗濯物取り込んでたって事は、今家なんだよな?出て来れたりしない?」
早速本題。
そこら辺、一馬辺りとは違う手際の良さというか。
突然の誘いに電話の向こうの将は少し戸惑ったようだったが、折角のお誘いだから、と快くOKを出した。
場所を伝えて、時間を確認して。
名残惜しそうに電話を切る結人を、英士と一馬はじっと見つめていた。
「……なんだって?風祭。」
少し緊張した面持ちで一馬が訊く。
それに結人はVサインで応えた。
「オッケー!今から出て来るってよ!時間が少し掛かるっつってたけど俺らにはそんなこと何でもないことだしな?」
悪戯っぽくウインクをする結人に、一馬はホッとしたような、困ったような、そんな複雑な表情を浮かべた。
隣にいる英士は明らかに喜んでいる。
いつもそう簡単に笑わない彼が、今心底嬉しそうに口の端を上げているのだから。
そんな英士に、結人は「英士ってさ、風祭のことになるとやーわらかく笑うよな?いつも小馬鹿にしたような微笑しか浮かべないのに。」と顔真似をしながら、皮肉を言った。
それに英士はシニカルな笑みで応える。
そうなると結人は引き下がるしかない。英士が言葉を発せず嗤うときは、その質問に答える義務はないね、と暗に拒否している時なのだから。
三人はフェンスに寄りかかって待ち人を待つことにした。
鞄の中に入れていた文庫本を取り出して読む英士。
そよそよと流れる風に髪を遊ばせている結人。
落ちてくる桜の花弁を掴まえようと手を伸ばしている一馬。
それぞれに待ち方は違えど、胸に秘めた想いは同じ。
“早くおいで、風祭。”
・END・
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