雪華〜Side E〜 |
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咄嗟に笑顔を張り付けた自分を誇りたいと思う。
月一度の選抜練習。 いつもなら俺達―――俺、結人、一馬―――は揃って練習を受けているところだけど、生憎と一馬は風邪をこじらせて寝込んでいた。 生真面目な性格の一馬のことだ。 適当に手を抜いて置けばいい試験勉強も、全力でやった結果なのだろう。 そんな彼を話の肴にしながら、練習の合間に結人と笑う。
「一馬もさ〜サッカーできなくなるくらいに勉強するなんて本末転倒っつーか、やっぱ要領悪いよな〜。アイツの良いところでもあるけど。今更驚かねぇっつーかさ。」 「本当だね。でも結人の口から四字熟語が出てくること自体が俺には驚愕に値する出来事なんだけど。」 「ひっでー!俺だってなァたまには知的に会話を進めることだってあるんだぜ!」 「たまにはねぇ…。いつもはそうじゃないって自覚、とりあえずはあるんだ?」 「うっわ、英士超嫌味。」 「今に始まった事じゃないでしょ。」
長年の友人には気を使わなくて良い分、言葉がスラスラと出てくる。 一馬辺りにはちょっと気を使わないと落ち込んで浮上してこないから、言葉を選びはするけど、結人は何を言っても、それを冗談と割り切って話してくれるから気分的にすごく楽だったりする。 安心できる場所があるというのは、かなりの救いになるものだ。 サッカーは彼らに結びつけてくれた大事なもの。 まぁ、感謝しても良いかな。 そして―――。
「楽しそうだね。僕も入れてもらって良い?」
まだ変声期を過ぎていない、少年らしい声。 いつもと違って頭上から降ってくるそれは、心地良く耳に響いた。 隣の結人が声の主を確認して「あ!」と嬉しそうな声を上げる。
風祭 将。 珍しく俺の思考を独占する程の存在感を持つ人物。
「全然OK!てか珍しいよな!風祭から話し掛けてくれるなんてさ〜vv」 結人が語尾にハートマークを付ける勢いで風祭に微笑みながら、俺と自分の間に席を作る。 さり気なく俺の事を押し退けてることには目を瞑ろう。 後で覚えてなよ、結人…。 でも本当に珍しい。 いつも風祭は武蔵森の連中か桜上水の連中か―――とにかく、俺達とは違った友人達に囲まれているから。 まぁ、こっちにしたら願ったり叶ったりなんだけど。 風祭は結人が作ったスペースに腰を下ろしながら、彼にしては珍しく、曖昧に微笑んだ。 ……? この妙な違和感は、何だ?
「うん…あ、あのね、今日は三人一緒じゃないからどうしたのかな〜…って…。」 パタパタと細かいアクションを取りながら、風祭は一生懸命話す。 いつもながら可愛い動作に変わりはないんだけど。 それって、つまり。
「……風祭は一馬が居ないのが気になった……って事だよな?」
俺の疑問(確信?)は結人がゆっくりと言葉にして紡いでくれた。 途端、風祭の顔がこれでもかと言うほど真っ赤に染まる。 それを見て顔を見合わせる俺達。 結局、嫌な疑惑を残したまま、風祭はそそくさとFW練習に戻っていってしまった。
練習後。 汗が充満するロッカールームでは、終了直後、皆用事があるとかでもの凄い勢いで着替え、出ていってしまったので、何故か俺と風祭が二人きりになっていた。 結人まで用事があるとかでさっさと帰ってしまう始末。 こうなるとゆっくり着替えている自分が酷く暇な人間に思えてくるから、おかしな話だね。 それはともかく、先程から何か聞きたそうにこちらを見てくる風祭の視線に、俺はどうやって応えるべきなんだろうね?
「何か用?風祭。」 くるりと風祭の方に振り返って抑揚のない声で聞けば、「え、あ、うんとね……」と、何とも歯切れの悪い返事が返ってきた。 ふぅ。 思わず付いてしまった俺の溜息に気が付いて、風祭は申し訳なさそうに頭を項垂れる。 聞きたいことは分かってるけど。 それを教えてあげるほど、俺は親切じゃないつもりだよ。
沈黙が訪れる。 どの位そうやって双方黙っていただろう。 長いような、短いような。 そろそろ帰ろうかとしたところで、風祭が意を決したように勢い良く顔を上げた。
「あの!今日は一馬くん、どうしたのかなって思って……。」 ……何だって? 「―――“一馬”、くん?」
俺が反芻すると、風祭は「あ」と短く声を上げて、殆ど無意識気味に口に手を当てた。 あぁ、そういうこと。 「一馬なら風邪で休みだけど。―――いつからそんなに仲良くなったの?」 揶揄するように微笑みながら問えば、風祭は困ったように眉をハの字に下げた。 頬はほんのりピンク色に紅潮している。 「う……きっとそれは後々一馬くんから言ってくれると思うんだけど……。僕からは何も言えないよ…。」 報告が必要なほど親密な関係になったんだ? 出そうになる言葉と微かな鈍い傷みを一緒に飲み込んで、俺は笑顔を張り付けた。 でも多分、目は笑ってないだろう。
「あ、じゃあ僕もう帰るね。」 視線に耐えられなくなったのか、風祭は苦笑を浮かべながら小走りにロッカールームから出ていってしまう。 彼はきっと、そのまま一馬の家に直行するのだろう。 息を切らして、途中でリンゴジュースなんか買っていくのかもしれない。 ぼんやりとそう思って、そんなことを考えている自分が馬鹿らしくなって。 こっそり苦笑を零した。 そうだね、これは一応、失恋という部類に分類されるのかな? 自分にあまりに似合わな過ぎて、笑うしかない。 ―――笑っても広がるのは空虚な空間だけだけど。
とりあえず、一馬の報告をからかい半分で聞けるほどには回復しておかないとね。 風祭から出る「一馬くん」と言う言葉も、自然に流せるようにならないと。 ああ、でもこのついでに俺の事を「英士くん」て呼ばせるのもいいかな。 一馬はきっと面白く無さそうな顔をするだろうけど。 それこそ願ったり叶ったりだね。
・END・ |
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作者コメンツ |
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失恋物第3段(爆) |
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