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雪華〜Side K〜 |
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今更何を想っても言い訳にしかならねぇ。
ピピピ。 意識を飛ばし掛けた刹那、電子音が鳴り響いた。 脇に挟んでいた体温計が熱を計測し終えたようだ。 取り出して見てみると―――39.2度。 全然下がってねぇ……。
今日は月に一度の東京選抜の練習日。 にも関わらず俺―――真田一馬―――は熱を出してベッドに横になっていた。 多分、最近テスト勉強やらで遅くまで起きていたのが祟ったんだろう。 熱は上がる一方で下がる気配すら見せない。 折角……今日はアイツに会える数少ないチャンスだったのに。
いつからだろう。 あの小さい背中を知らずに追うようになっていたのは。 初めは「何だコイツ、何でこんな奴が選抜に来てンだよ」とか思ったもんだったけれど、練習や試合をこなしていく内に自然とそんな考えは薄れていった。 アイツは―――強い。
認めることが出来たのが遅すぎて、周りはライバルだらけだったけれど。 いつの間に恋愛感情なんつーもんに変化していたんだろうな。 自分でもハッキリとは思い出せない。 大体初印象が最悪だっただけに今更好きだなんて言えるはず無い。 ……結人のおかげで最近は普通に話せるようにはなったけど。
結人は人懐っこい。 そのくせ嫌いな奴には容赦しない、英士に負けず劣らずイイ性格だ。 英士は基本的に冷たいっつーか、感情の起伏がないんだけど。 まぁそんな二人が気に入って―――俺もだけど―――いるのが、東京選抜でも一番チビで下手クソの風祭将だったりするわけで。 俺達は恋のライバル、になってしまったりしている。 ライバルって言っても大して意識はしてないんだけどな。
それにしても身体が上手く動かない。 関節が少し動く度にピキピキと悲鳴を上げるせいで、寝返りを打つことすらままならない。 熱のせいで頭もボーッとしている。 こんな日に限って家族が誰もいないって言うのも、ちょっと寂しいよな……。
ピンポーン……
玄関のチャイムの音。 時計を見ればもう夕方。 練習が終わった英士か結人が見舞いに来てくれたんだろうか?
重い足を引きずって階段を下り、ドアノブに手を掛ける。 カチリ、といつも通りの音を立てて開いたドアの先に待っていたのは英士でもなければ結人でもなかった。
「こんばんは、真田君。お体の具合はどう?」
ちっこい身体に良く弾む声。 見間違えようがない―――風祭将だ。
なんだ? 何が起こっているんだ? 俺、風祭に家教えてないよな…? どうして、ここに?
「あっははー!やっぱり一馬呆けてやンの!」 動揺している俺を余所に、そんな明るい声が風祭の後ろから響く。 ……この声も聞き間違えようがねぇな。 「……結人?」 「ぴんぽーん!」 しかめっ面で睨んでやれば、飄々とした態度で結人は風祭の後ろから出てくる。 「病気の一馬クンを二人で見舞いに来てやったんだぜ!感謝しやがれー!」 ニコーッとこれ以上ないくらいの笑みを浮かべて、結人は恩着せがましい台詞をさも当然というように吐いた。 英士がいないのが気になるけど…風祭に風邪引かせるわけにもいかねーし、とりあえず家に入れることにして、二人を中へと促す。
「突然お邪魔しちゃってゴメンね。あ、いいよ僕がやるから真田君寝てなよ。」 申し訳なさそうに謝っていた風祭は、ジュースを入れようとした俺に気付いて、慌てて立ち上がった。 良く気が付く奴だよな。 風祭の言葉に甘えることにして、そのままベッドに横になる。 氷枕が既に役目を果たしていなかったが、それは黙っていた。 ―――何か、カッコわりぃし。
それから見舞にと二人が買ってきてくれたリンゴジュースとスナック菓子を頬張って。 今日の練習はどうだったとか、今度は参加できると良いね、とか他愛のないことを話す。 そうしている内に時間は過ぎていき、外を見れば空が暗闇を落とし始めていた。 「二人とも時間大丈夫か?」 問えば。 「あ、僕もう帰らないと。」 風祭がコートを手に立ち上がる。 それにつられるように結人も立ち上がった。 「俺も帰る!うひゃ、結構暗いな〜。じゃな一馬!また見舞いに来るから。」
風邪引いてるんだから部屋から出んなよ!と言う結人の言葉に押されて(ドアを開けたのは誰だと思ってんだ)俺は部屋で二人と別れた。 一人きりになった部屋は心なしか温度が下がったような気がする。 病気の時は心細くなる、って言うのは本当だよな。 俺も例に漏れず淋しくなって、つい、窓の外を覗いてしまった。 すると、ちょうど玄関から出て行く二人の姿が見える。 声を掛けようか掛けまいか、ほんの少しの躊躇。 その間に結人はくしゃみをした風祭に自分がしていたマフラーを巻き付けた。
ここからじゃ、声は聞こえない。 推し量ることしかできない。 それでも。 愛しさに満ちた結人の眼差しと、それを受けて嬉しそうに微笑む風祭の笑顔だけは朦朧とした頭で何故かハッキリと認識していた。
何だか、胸の辺りがズクズクと痛い。
衝撃はなかった。
ただ、ジワジワと毒のように広がる密かな痛みだけ。
あれ? 俺は結人が風祭のこと好きだって知っている、よな? 何でこんな事で窒息しそうになるんだ?
答えは分かっている気がした。 英士が一緒に来なかったのも、きっと関係がある。 だけど、凝りもせず俺は分からない振りをしたかったらしい。 鈍った思考は、感覚まで鈍らせていたのか。
結人は何も言わなかった。 風祭も何も言わなかった。 ―――けど、英士は二人と一緒に来なかった。
どの位外を眺めていたんだろう。 短かったような、長かったような。 はらり、と落ちてくる物に気付いたのは随分後だった。
舞う、白雪。 東京にしては珍しく、かなり大きい物だった。
何だよ、こんな時に降ってくることねーだろ。 人の不幸を嘲笑ってんのか?
喉の奥に嘔吐感のような物がこみ上げてくる。 目頭が熱を持ち始めたけれど、それをどうにか押し留めた。 まだ、俺の推測に過ぎない。 ここで傷付くのは違う気がした。
握った拳に血管が浮き出始めた頃。 メールの着信を告げる音楽が俺一人しか居ない部屋に響いた。 のそりとそれを見る。 ―――嫌な予感がして見たくなかったけれど。
『一馬へ。黙ってて悪い。俺、風祭と付き合うことになった。』
予想通り過ぎて、笑いさえこみ上げてくる。 全く、本当にお前はイイ性格だぜ。 死にそうな病人に死刑宣告みてーな事すんだからな。 分かったよ結人。 今度会うときまでには、いつも通り笑えるようになっていてやるよ。 バッカヤロー……。
・END・ |
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| 作者コメンツ | |
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失恋物第2段(爆) |
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