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雪華〜Side Y〜 |
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後悔先に立たずとはよく言ったもんだぜ。 . . 「は?」 俺の第一声はそれ。 自分でも何とも間抜けな声を出したものだと思う。 だって…英士、今お前自分が何言ったか分かってンの? 呆けてしまった俺に、やれやれと言った風情で英士が肩を竦めた。 いつ見ても仕草に一分の隙のない友人だと思う。 そして―――恋愛に対しては1ミクロンの隙もなかった。 . 「だから。」 そこで一旦切り、彼特有のシニカルな笑みを浮かべてから、英士は続けた。 「俺、風祭と付き合うことになったから。」 . . 俺、英士、一馬の中で一番最初に風祭と仲良くなったのは俺だったはずだ。 遊んだ回数が多いのも俺なハズ。 話したのだって、元々口数が少ない英士やぶっきらぼうな一馬より断然多いと思う。 あの笑顔を一番向けられていたのも俺。 ……今となってはそれもタダの思い上がりだったって、思い知らされたけど。 . 英士から報告(…だよな、あれは)を受けたのは一馬が風邪で寝込んでしまった寒い冬の日だった。 選抜の練習後、用事があって英士とは別々に帰ることになった俺は、忘れ物をした事に気付いてロッカールームに戻ったときに見てしまった。 ―――仲良さそうに話している英士と風祭を。 英士の表情は今までに見たことのないくらいに穏やかで、風祭の笑顔も他の奴等に向けるそれとは少し違っていた。 何て言うんだろう。 そう、『幸せ』って奴を具現化するとしたら、二人のいる空間が正にそれって感じで。 いつもなら間に割って入って行くところだけど、その時はとても俺なんかが割り込める雰囲気じゃなくて。 結局忘れたタオルをそのままに帰ろうとしたワケなんだけど。 運悪く……英士に見つかってしまった。 「結人、何してるの?」 入り口付近で挙動不審にしている俺に、英士は何食わぬ顔で話し掛けてくる。 風祭はと言えば、後ろで帰り支度をしていた。 「じゃあ郭くん僕はこれで。若菜くんもバイバイ。また次の練習日にね!」 「またね、風祭。」 「お、おう…またな。」 パタパタと軽快に走り去っていく小さい背中を、俺と英士はしばらく無言で見つめていた。 . 「…で?結人は本当に何しに来たの?今日は用事があって帰るはずだったでしょ。」 風祭が視界から消えて、いつもの調子で英士が俺に話し掛けてくる。 「あ!そうだ!俺タオル忘れてさ〜取りに来たんだった!」 ここに戻ってきた本来の目的を思い出して、俺はそそくさとロッカールームに入った。んで目的のタオルを見つけて鞄の中に押し込む。 そんな俺の行動を無言で眺めている英士。 チクチクと刺さる視線が居心地悪い。 こう言うときはさっさと帰るに限るな。 . 「じゃな英……。」 「結人は俺に何か聞きたいこと有るんじゃないの?」 . バタバタと未だ扉の所にいた英士の横をすり抜けようとした時、そんな言葉が掛かった。 驚いて、つい、英士を凝視してしまう。 俺のそんな行動を英士は喉の奥で笑ったようだった。 ……相変わらず意地悪い笑い方するヤツ。 . 「じゃあ言うけどさー。お前いつの間に風祭とあんなに仲良くなったワケ?顔が別人かってくらいに緩んでたぜ。一馬が見たら固まるな、きっと。」 . やけくそ気味に笑いながら言った言葉の節々に、ほのかに嫉妬の香りがする。 俺が自覚してるくらいだから、英士にはお見通しなんだろうよ。 いつだって英士は、自分の感情は表に出さないくせに人の感情を読み取るのは得意だ。 厄介な相手だぜ。 相変わらず微笑を称えたまま、英士は俺の言葉を聞いていた。 何となくその表情に広がる優越感が気に入らなくて、睨むように英士に視線を固定させていると英士はふぅ、と一つ溜息を吐いた。 ―――? . 「一馬が休みで良かったよ。アイツにはまだ知らせたくない。」 . 知らせたくない。 そう言った英士の表情は何だか恍惚としていた。 . 「何かあったのか?英士。」 嫌な予感にドキドキと高鳴る心臓を押さえつけて、努めて平静に振る舞う。 成功しているかどうかはまた別の話。 英士はさっき風祭に向けていたのと同じ様な類の笑みを作って、俺に言い放った。 . 「俺、風祭と付き合うことになったから。」 . 「は?」 . 俺が何とも情けない声を挙げたのはこの時だ。 考えてもみてくれよ。 そんなに親しそうにしていなかった二人が急に「付き合うことになった」だぜ? 驚かない方がオカシイっての。 思考が停止してしまった俺に、英士はもう一度さっきと同じ言葉を微笑んだ口元に乗せた。 情けないことに、俺はその時曖昧に笑って「良かったじゃねーか」と捨て台詞を残し、用事を理由に全速力でそこから立ち去ることしかできなかったんだけど―――。 . 「ハァ…そんなのってアリ?」 嫌味なくらいに綺麗な橙の夕焼けに呟く。 頭が真っ白のままいつの間にか自宅近くに来ていた。 人間の帰巣本能って凄いな、ハハハ…。 そうだ、今日は母さんが早く帰ってきなさいって言ってたんだっけ。 何で? そう、親父の誕生日だから、夕飯は誕生日パーティにするって言った。 きっと豪勢な食事になるだろう。 ああ見えても料理上手いもんな。 料理と言えば風祭の料理も美味かったな。 家に行った時に遅くなって夕飯をご馳走になって。 同い年の男が作る料理かよコレ、って思った記憶がある。 風祭と付き合うヤツはこんな料理食べれるんだな、羨ましい…とも思っていた気がする。 俺がなれたらいいな〜とか呑気に思ってて。 でも現実は違ってた。 風祭と付き合う。それは俺じゃなくて―――。 . 「マジかよ英士……。」 やるせなくなって、うっかり声に出してしまう。 その声にさっきの出来事が夢でなかったことが証明されたようで、余計に切なくなってしまった。 ……馬鹿じゃん、俺ってば。 . 景色が滲んでくる。 それが何なのかなんて今更考える必要もなかった。 形振り構わず泣きてぇな、本気で。 ちっぽけなプライドが、それすら許さないだろうけど。 . 悲しみの雫が零れないように、自然と上を向いた。 すると瞳に飛び込んでくる白。 . ―――ああ、何てタイミングで降って来るんだろうか。 . 謀ったように降り始めた雪にまで、俺は毒づいた。 同時に雪が大降りになればこのナサケナイ涙も隠せるかも知れないな、なんて、無意味な期待をしながら、トボトボと家路を辿る。 . 情けない。本当に情けない。 たかが失恋くらいで、何でこんなに涙が止まらないんだろう。 笑いたい。笑えない。 この分じゃ英士か風祭に会っただけで瞳が潤んでしまいそうだ。 そうだ、今日誕生日の親父にも申し訳ない。 人を祝える気分じゃないぜ、今の俺。 . ―――いや。 . 笑う。笑ってみせるさ。 親父にも英士にも風祭にも。 人懐っこい明るい笑顔がウリの若菜結人ともあろうものが、こんな暗い顔してちゃいけねぇよな! . ……でもさ、やっぱり、ちょっと、辛いから。 真っ白な雪に紛れて、今だけ少し泣いても良いよな? . . ・END・ |
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作者コメンツ |
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初ホイッスル!小説が失恋物ってどういうこと!?と自分に突っ込みつつ。 |
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