Glück

 
 

若林の家に泊まりにいくことになった。
若林から誘ってくれたのだ。
頭の中は花畑を転がりながらも顔は引き締め自然とスキップしようとするのを堪え若林家に行けば、見上がいた。

それなのに何故、若林と同じベッドで寝ることになったのか…。

これが二人っきりなら当然頂かせてもらうのだが、別の部屋で見上が寝ている。

 羊を数えたり九九や円周率やフォーメーションやら考えて出来うる限り隣を気にしないようにしてやっと睡魔がいろいろな煩悩に勝ちぼんやりとした意識で時計を見たら2時、真夜中だった。そしてそのまま、眠りの世界へ

行くはずだった…。

突然、横の若林が飛び起きなければ。

「…なんだ?」

多少不機嫌に問いかける。これで何でもないとか言ってみろ。
ようやく寝れそうなところを起こされたんだ、怒るぞ。

「…なんでも…ない…。」

 

怒れなかった…。

それどころか心配で堪らず飛び起きた。

 

「泣いてるだろ、どうした?」

サイドランプに手を伸ばそうとしたら。

「や、やだ。点けんな。」

涙声で止められた。
が、このままだと埒が明かないと判断し明かりを点けた。
やわらかい光に照らされた若林を見るとやはり泣いていた。

「どう…。」

もう一度問いかける途中で気が付いた。

パジャマが濡れている。

 

若林は天使なんかじゃなく普通の少年だった。

 

「しちゃったのか。」

「ふえええ〜〜〜ん。」

子供のように泣き出されてしまった。確かに照れくさいかもしれないが、そんな大泣きしなくても良いだろう。

「泣かなくて良いから、な?」

頭を撫でてやる。

「夢精くらい誰でもするさ。」

「むせ、い…?」

「若林?」

「…おねしょしたのかと…。」

「初めてだからびっくりしたんだな。とりあえず濡れて気持ち悪いだろ?目も真っ赤だ。洗ったほうが良い。」

返事を待たずに抱き上げてバスルームに向かう。

「こんな時間に…。見上さんに…。」

「見上も男だから理解してくれるだろう。」

「でも…。そういうものか…?」

男の事情を理解し切れていない若林としては気になるのだろう。

「気にせず、きちんと洗え。」

バスルームに放り込む。しばらくすると水音が聞こえてきた。

 

セックスまでしたのに彼の性への意識は低い。
出てきたら話をしたほうが良いだろう。
どうやって話していくべきか。

 

考えていると見上が来た。

「こんな時間にどうした?」

なんと言うべきか。
話せば男同士理解してくれるだろう。
しかし、若林は見上に知られたくないようだった。
それを思うと素直に言うべきではないような気がする。
でも、いつかは知れることだろう。

言いよどんでいると何かを察したのだろう。

 

『源三もそういう年頃なのか…。』

『子供だと思っていたが。いや、それは私がそう思いたかったのかもしれない。』

『とにかくきちんと話すべきだろう。本来なら父親の役目だろうが、ここは私が!』

 

なにやらぶつぶつと頷いたり首を横に振ったり握りこぶしを作ったりしながら独り言を言っている。
あいにく日本語なのでオレには何を言っているのか分からない。

「シュナイダーくん。ここは私が源三に話そう。」

一人で結論をだして気負った見上が話しかけてくる。

「構わない。オレが…。」

話す。

と続くはずの言葉は見上の言葉にかぶさり言えなかった。

「いや、ここは私が!本来なら父親や兄の役目だろうが、あいにくここにはいない。ならば保護者である私が源三に大人への成長を話し不安がっている源三が歪まないようにしなくてはいけないのだ。」

勝手に盛り上がっている…。

「見上…。」

「源三は素直で良い子だ。だからこそ最初の教育が大事なんだ。そうだろう、シュナイダーくん。」

「はあ…。」

ここまで盛り上がる人とは知らなかった。そういう人だからこそ若林をドイツに連れてくるようなことをしたのかもしれない。

「悪い虫に付け入る隙を与えないようにきちんと指導しよう!」

後ろに炎を背負っている…。
もう頂いてます、などと言ったらオレの身はどうなってしまうのか…。

 

「シュナイダー?見上さん?」

出てきた若林がきょとんと首を傾げている。

『源三、話をしようか?』

若林の肩を抱くようにして連れて行く。

『はい。』

恥ずかしそうに顔を赤らめてうつむくバスローブ姿の若林。事情を知らないものから見たらイケナイ想像をしそうになる光景だ。

 

そうしてしばらく二人は部屋から出てこなかった。

 

その間、若林の部屋でベッドに腰掛けては立ち上がり、うろうろと歩き、柔軟をしたり、腹筋をしたり、腕立てをしたり、置いてあったボールでリフティングをしたり、ダンベルを上げ下げしたりと落ち着かずに待っていた。

「シュナイダー?」

ようやく話し終わった若林が戻って来た時はベッドに腰掛けていた。
若林から見たら落ち着いて座っていたように見えただろう。
つまらないことだが、おろおろと待っていたようには見られたくないオレとしてはちょうど良いタイミングだった。

「え〜と。その、悪かったな。」

照れくさそうに髪に手をやり礼を言う。

「いや、構わない。」

ぽん、ぽんとここに座るように自分の膝をたたいてみる。
いつもなら気付かないか気付いても真っ赤な顔をしながら見ないようにするところだ。

近くまで来た若林は

「重くないか?」

と言いながらオレの膝に乗ってきた。

 

なにがあったんだー!?

 

心の中で絶叫と百面相をしながらも表面上は変わりなくいつも通りの無表情を保った。

「素直だな。」

からかうように頬を撫でる。熱い。やはり、照れているらしい。

「ん。さっき見上さんと話して、な。ちょっと…。」

「ちょっと、何だ?」

額をあわせるようにして覗き込む。

「嬉しいんだよ。」

はずんだ声で抱きついてきた。

「嬉しい?」

あれだけ恥ずかしがっていたのに急にどうしたんだ?

「見上さんがああいう体の変化は自分の想いとは別で起きるからしょうがないもので、大切なのはその欲に流されないことだって言うんだ。」

見上は決意どおり告げたようだ。それで何が嬉しいんだ?

「それで?」

「それでな、欲に流されて勘違いで相手を選んで互いに傷つけあうことがあるって。そうならないようにって。」

「だから?」

「だ・か・ら。」

一語一語区切って明るく笑う。

「オレは違うんだって思って。お前と付き合い始めたときはそういうの感じてなかった、どころかそういうことがあるって知らなくって…。子供だったから…。」

そう言って照れくさそうに笑う彼は今も十分ガキっぽい。

「それなのにきちんと教えてくれて。オレの体が成長するまでお前待っててくれただろう?」

思いが通じるまでは「心は無理なら体だけでも」と思い、付き合ってからも何度強引に教えようとしたことか。
その欲望を押さえつけた過去のオレ、偉い!

「今まで本当にありがとう!」

満面の笑みで抱きついてくる彼は、天使のようだ。

「見上さんに話し聞いてからどうしてもお前に礼が言いたくって。あとな。」

「何だ?」

「カール、大好きだ!」

「ああ、オレもだ。」

嬉しすぎる。

このまま愛し合わないか?お伺いのキスをしようとしたら若林の体が離れた。

「もう寝ようか?」

「…ああ。」

かなりいいムードだったと思うが、若林がその気がないなら仕方がない。健全に寝よう。もの凄く惜しいが、これほどの信頼の言葉が聞かされた後に無理やりというわけにはいかない。

天然で凶悪だ…。

でも、これが可愛い俺の恋人。

 

 

・おまけ・

「幾つまでおねしょしてた?」

「な!急になんだよ?」

「昨日、したとき『おねしょしたかと…』って言ったからまだしてるのかと…。」

「そんなわけあるかー!」

寝不足のお礼にちょっとだけ苛めても良いだろう?

 

 

…END…

お礼コメンツ

 

いのぽんさまから頂きました☆
もーね、シュナ幸せそうだなってね(幸せなのはあんたの頭だ)
無理矢理やらないで良かったね!やってたら今頃目も当てられない惨状が繰り広げられていたかと…(ブルブル)
至近距離で若林くんの全開の笑顔を食らったシュナは、もうそれだけで幸せでしょうな〜。
うらやま…いやいや、何でもないです(笑)

いのぽんさま、素敵文をありがとうございましたv
あ、ちなみにこの小説、「行為×好意」の冒頭でシュナが言っていた『一度だけ生理現象としての性に立ち会ってしまった』ときの出来事だそうですので、今回は闇の方にアップさせて頂きましたv