どうでしょう、この人。

あまりにも、あまりにも鈍すぎやしませんか。

 

愉快な人々

 
 

好きなんだろうなァ、とは思う。

大切なんだろうなァ、とも思う。

しかし、あれはあまりにもあからさま過ぎだろうとも思うのだ。

 

ちょっとだけ、少しだけ、落ち着いてみませんか?

我が愛しの皇帝閣下。

 

 

「…俺は十分に落ち着いている。」

ぶすっと綺麗な顔を思い切り歪めて、シュナイダーは低く呟く。
瞳が物騒だ。
その眼光で一体誰を殺す気なのか、と小一時間ほど問い詰めたくなる。
聞かなくたって答えは分かっているけれど。
不機嫌街道まっしぐらなドイツの若き皇帝に、マーガスは肩を竦めて見せるしかなかった。

 

フランスで行われた第1回国際ジュニアユース大会。
優勝候補と名高いドイツジュニアユースも、日本に惜敗を喫し準優勝という結果に終わっていた。
内容は悪くない。むしろ素晴らしいと言える。
試合後も若林の通訳でキャプテン同士友情を育んだようだし、ドイツの選手にとっても完全燃焼できた試合だったことは疑いようもない。
シュナイダーの家庭の事情も一段落し、皇帝的にもこの大会は意味のあるものだったのではないだろうか。

 

「しかしそんな顔されるとねぇ。」

大げさにため息をつくマーガスの正面には仏頂面のシュナイダー。
未だ選手控え室から退出せずに、こうして座り込んだまま何をするわけでもなく、ただイライラと指で机を叩いている。
トトントトン、と繰り返されるリズムに彼の不機嫌の度合いが分かって、数十分前には大体の選手はそそくさと帰ってしまった。
とりあえず今この部屋にいるのはマーガスとシュナイダーのみ。
いくらマーガスが話し上手だからと言って、このシュナイダー相手に会話が弾む訳もない。
どうしたもんかとマーガスが2度目のため息を吐こうとしたところに、ガチャリとドアノブを回す音が響く。

現れたのはシェスター。

彼は優雅な仕草で部屋に入ると、その重苦しい空気に眉をしかめた。
マーガスにちらりと視線を送ると、先ほどシュナイダーにして見せたように肩を竦めて見せる。
お手上げです。
無言の降伏宣言に、シェスターは苦笑いを浮かべた。

「シュナイダーは相当ご機嫌斜めだね。」

言いながらマーガスの横に腰を下ろす。
すると一瞬、シュナイダーがシェスターの方を一瞥したが、それきり、また机を叩き始めてしまった。
「これだよ」とマーガスが呆れて言えば、シェスターも「困ったもんだね」と相槌を打つ。
試合中も決して機嫌が良いとは言えなかったが、試合後のこの塞ぎ込みようはどうだ。
彼の両親が仲直りをしたことはカルツから聞いた。
だったら、今シュナイダーは上機嫌でいなければならないはずなのに。
何がそんなに気に入らないのか。
マーガスもシェスターも心当たりはある。というか、シュナイダーを知っていて、先ほどの彼を見てればきっと誰でも分かるだろうと思う。
だからカルツはこの場にいない。
この状況を打破できる『秘密兵器』を持ってくるのだと、冗談めかしてさっさと走っていってしまった。

(あー早く来ないかな、カルツ。)

不機嫌な皇帝を前に、ブレーメンコンビは揃ってため息をついた。

 

 

それから数分後。

頼みの綱のカルツはのんびりと帰ってきた。

 

「よーお待たせ。なんだい、まだ皇帝のご機嫌は直んねぃのかい?」

長めの楊枝をその口にくわえて、カルツは笑う。
このおっさんが同年代だとはマーガスもシェスターも思いたくなかったが、現実として彼は自分たちと似たような年だ。
世の中には信じられないことがあるものだと2人は遠い目をする。
しかし現実逃避をしている場合ではない。

「カルツ、見つかったのか?」

かたりと席を立ってシェスターが扉付近にいるカルツに近付けば、カルツはにやりと笑って頷いた。
扉の外を見て、シェスターもホッと微笑む。
どうやら見つかったらしい。
よく見つけてくれたものだと、今度はカルツにお礼を言いたくなってきたシェスターだった。

「シュナイダー、お前さんに土産だ。」

剣呑な空気を纏っているシュナイダーは、カルツの言葉に軽く顔を上げる。
しかしすぐ興味を無くして、また俯いてしまった。
カルツは別段気落ちした様子もなく、淡々と話を進める。

「ふーん、いらねぇの?せっかく日本チームから拉致って来たのによぉ。」

へーそう。
と、呟くカルツは意地悪顔。
「日本」という単語に面白いくらい反応したシュナイダーは、少しつり上がり気味の瞳を目一杯に開いて少し老けている幼馴染を凝視している。
唖然とした表情は見物だった。
さっきまでの不機嫌オーラはどこへやら。
まさか、とか独り言まで呟いて、扉の外に意識を集中している。
あまりの変わりように、思わず吹き出しそうになるマーガスはまだ修行が足りない。
シェスターもカルツも手馴れたもので、にこーっと表面的に紳士な笑顔を貼り付けている。
まぁ、本心は大笑いしたくてたまらないのだけれど。

とにかく。

シュナイダーの気分を浮上させるだけの『秘密兵器』は、酷く疲れた格好をしてその部屋に現れたのだった。

 

「何だよ〜俺まだシャワーも浴びてねぇのに!」

 

ひょこ、と扉から顔を出したのは、先ほどまでフィールドの上で鬼のようにドイツチームのシュートを防ぎまくっていた若林。
本人の言葉通り、まだその汗を拭いきれていないのだろう。
試合の余韻が残る表情は、普段の彼より幾分硬い。
その若林をぐいぐいと部屋の中に招き入れて、シェスターはシュナイダーの隣に座らせる。
何が起こっているのか良く分かってない若林は、とりあえず、横にいるシュナイダーに「よぉ」と声をかけた。
するとシュナイダーも「あぁ…」と呆けて返事をする。
その間にシェスターはマーガスの隣に腰を落ち着け、カルツはシュナイダーの逆隣に座る。
そして徐に試合のことを話し始めた。

「今日はいい試合だったな、若林。」

斜め前からマーガスが言えば、若林の表情はぱっと明るくなる。

「そうだな!やっぱりお前ら凄いぜ。防ぐ方も楽じゃなかった。本当、疲れた〜。」

んーと伸びをする若林に、今度は正面のシェスターがくすくすと笑った。

「あれだけ活躍したんだ、そりゃ疲れもするね。」

賞賛と嫌味を込めて。
微笑みとともに送った言葉は、前者の意味だけ若林の耳に浸透し、後者は空気に紛れて消えてしまった。
だから若林は屈託なく笑う。

「ちょっとはお前らのこと知ってたからな。有利っちゃ有利だったんかもな。」

その言葉に、知っていたのはお互いさまだと笑えば、また、それもそうだなと素直に認めて強気に微笑む。
幼い笑顔にほんのりと胸が暖かくなるのは、その場にいた全員。
カルツもシュナイダーの向こうから「今回はわしらの完敗だぜよ」と、若林に言葉を送る。
それを受けた若林は、今度はゆっくりと笑った。
慈しむように、ゆっくりと。

滅多に見せない温和なその表情は、カルツに届く前にシュナイダーの前を通過する。

途端、火が点いたように真っ赤になる皇帝。
そんな彼に、SGGKは不思議顔だ。

「何?シュナイダー顔赤いぜ?」

熱でもあんのかよ、と若林が顔を近付ければ、ますますシュナイダーの顔は赤くなっていく。
こつん、と小気味良い音を立ててぶつかった額から湯気が出そうなくらいだ。
「熱いような気もする…けど」と、額をつけたまま呟く若林の吐息がシュナイダーにかかって、もはや皇帝の理性の糸は切れる寸前まで追いやられる。
唸る若林に耐えるシュナイダー。
面白おかしいこの2人に、マーガスは机に突っ伏して笑いを堪えていた。そりゃもう必死で。
シェスターも口の端が変な形に歪んでいる。
カルツに至っては、耐える必要もなかろうと楊枝を吐き捨てて、本気笑いを始めてしまった。

ひとりが声を立てて笑い始めれば、今更耐える必要もなくなるというもので。

突然の出来事にポカンとする若林に構わず、3人はそれぞれ出し得る限りの声を出し尽くす勢いで大笑いを始めたのだった。

 

「あは、あははは!あーもうおっかしー!若林サイコー!」

「ふっくくく…お腹痛い…ははは…!」

「ははははははは!ゲンさん、お前さんはどうしてそう天然なんだ…!ぷくく…。」

 

「な、なんだよ!俺が何したって言うんだよ!」

 

どうして笑われているのかサッパリ分からず、今度は若林が真っ赤になる。
その行動に3人の笑いはますますエスカレートして、マーガスはついに床に転げ回って笑い出した。
シェスターも腹を抱えて、声も出ないくらいに笑っている。
カルツは、隣のシュナイダーをバシバシと叩きながらそれは楽しそうに笑うのだった。

叩かれているシュナイダーは、また、不機嫌に拍車がかかるかと思えば。

何故か額を押さえて幸せそうな表情を浮かべている。

ますます若林は訳が分からなくなって、いっそ泣いてしまおうかと思った程だ。
優勝して、良い気分のまま帰ろうと思っていたのに、突然カルツに拉致られて連れてこられたドイツ陣内。
和やかに招き入れてくれたかと思えば、突然笑い出したり、幸せそうに微笑んでいたり、訳が分からない。

(これは俺か?俺がおかしいだけなのか?)

笑いの波に乗れない若林は、ぽつんと置いてきぼりを食らった子供のような表情で、その空間を孤独に過ごしたという。

 

 

釈然としない表情のまま、若林がドイツ陣内を後にしたのはその数分後。
笑いすぎて、試合以上に疲れてしまったというマーガスは、疑問符を飛ばし続けながら去っていく若林の後ろ姿に、懲りずにまたプクク、と笑う。

 

 

 

やっぱりさ、あからさまだと思うんだよね、シュナイダーの態度。

試合前も、試合中も、試合後も。

実際若林しか見てないじゃん?

 

面白いくらいにね。

どうしてあれで、若林は気付かないんだろう?

研究テーマとしてはこれ以上ないくらいに興味深いね。

 

何の研究する気ぜよ?

ま、サッカーはともかく恋愛方面に関してはゲンさんの偏差値は最低レベルだな。

だから。

 

 

「「「面白いんだけどね?」」」

 

 

綺麗に3人の声がはもった事など、夢心地のシュナイダーが知る由もなかった。

 

 

 

End…

言い訳後書き

 
闇1800HITS記念にいのぽんさまに捧げさせていただきます「天然若林くんがドイツ勢と仲良し」なお話。
ええ、ごらんの通り、全くリクに応えられていません…反省!
ドイツ勢って…この人たちで良かったのかと今更ハラハラドキドキなんですが…。
もしかして肖とかレヴィンとかだったら、勘違いも甚だしくてスミマセン!!こっそり
ミューラーを入れ忘れてスミマセン!!(爆)
さーらーに、皇帝がいつにも増して
ヘタレでスミマセン!!
闇だから…いつも以上にヘタレ…て…(汗)
どうもシェスとかガスとかカルツにかかると、この2人は良い暇つぶしの道具というかからかいがいのある玩具というか、とにかくそんな感じになってしまうのですが…。
ご想像と全く違うものになっていたら申し訳ないです;;
この腹かっさばいてお詫びをば!(ごめんなさいそんな勇気ないです)
リクエストありがとうございましたv受け取ってくださいましー(逃!)