【Schneider Side】
「お前って本当に独占欲強いよな。」
感心したように呟く若林に、自分の本質を見抜かれた気がしてぎくりとした。
そうだ。
俺は自分のもの(と言う言い方は適切ではないが)に対して異常なまでに執着心を持っている。
それは友人然り、家族然り……恋人然り。
「…お前は物事に関心なさ過ぎだ。」
不機嫌に返すと、そーかなぁ、ととぼけた返事が返ってきた。
そうなのだ。
若林はサッカー以外において、ほとんど興味を示さない。
人間関係も、生活も、彼にとってはサッカーの付属品。
そんなものに時間を割いてどうする?などと、しらっと言いやがる。
それでどうして良好な家族関係やら友人関係やらご近所関係やらが培われているのか、さっぱり分からない。
家族に関しては憶測でしかないが(かかってくる電話に若林はいつも笑顔で応対しているから)友人関係はチームメイト、クラスメートの反応を見ていれば明らか。
初めはあんなに煙たがっていた連中も、すぐにコロッと態度を変えた。
「異国からサッカー留学だなんて、これだから金持ちの坊ちゃんは。」と言う意見はすぐに「遠い異国からサッカーのために家族と離れてひとり留学だなんて、いじらしい!」になり、「不遜な態度」は「剛毅で好感が持てる態度」となった。
まぁ、まだ一部分で軋轢を生んでいることも確かだが。
ご近所関係については、隣のおばさんが「男の人ばかりの家庭じゃ大変でしょ?お夕飯持って行ってあげるわね」と嬉しそうに話していたことから知れる。若林の対応も「ありがとうございます」(笑顔付き)だったし。
それだって、適当に相槌を打っているだけだったり、とりあえず笑っとけ、という内容の薄いものばかりなのだが、相手にそれが伝わらなければ「感じのいい子」で終わってしまう。
……解せない。
難しい顔で何かを悩んでいた若林は、ぱっと顔を上げると反論らしき言葉を口にした。
「そんなことないぞ。日本のことはいつだって気になるし、学校の授業付いていけなくて必死の時もあるんだからな。人のこと世捨て人みてーに言うのはどうかと思うぜ。」
言っていることは正論のような気もするが、やはりどこか「どうでもいい」と言ったニュアンスだ。
日本のことだけは本気で気になっているのだろう。
しかしそれも、ドイツのことはどうでもいいと言われているようで腹が立つ。
所詮、祖国と外国では仕方ないのかもしれないが…。
それより何より、俺としては。
「そー言えば、翼はどうしてるかなぁ。ここんトコ連絡取ってねぇから電話でもしてみるかな。」
「日本」という単語に必ずと言っていいほど付いてくる「ツバサ」という単語がまったくもって気に食わない!
確かに、ひと夏の想い出は宝物だろうよ。
加えて出会いから別れまで劇的なものであったなら、それは尚更。
だがな。
2年経った今でも昨日のことのように思い出して、微笑んでいるっていうのはちょっと違うんじゃないか?
おかしいだろう、普通に。
ドイツでの想い出は、2年前のものよりも希薄で思い出す価値もないのか?(そこまで言ってないです、皇帝)
そんなことを考えていると、自然に眉間に皺がよる。
負の感情に敏感な若林は、それを目敏く見つけてまた不思議がる。
嫉妬、という感情が未だよく理解できないようだ。
「俺の前でツバサの話はするな」と釘を刺しておいたのも、まったく効果がないようだし。
何と言うか…こんなんで本当に「恋人」と言って良いものなのか、甚だ疑問だ。
考えないようにしないと、凹む。
「…やっぱり、お前本当に “おかしいくらい” 独占欲強いよな?」
最近やっと「日本やツバサの話」をすると、俺が不機嫌になることは気付いたらしいが、それがどうしてだかは分かっていないらしい。
独占欲、と分かっているんだから、最終解答に辿り着いてもよさそうなものを。
ヤキモチを妬いているだけなんだと率直に言えるほど、人間丸くない俺も悪いのか。
【Wakabayashi Side】
「お前って本当に独占欲強いよな。」
感心して呟く俺に、シュナイダーは何故か軽く動揺していた。
図星だったか?
他人には酷く無関心な奴だと思っていたのに、自分が認めた仲間や大切な家族には異常なまでの執着心を見せて、俺は結構驚いていたりする。
飄々とした態度を取られていたときが嘘みたいだぜ。
「…お前は物事に関心なさ過ぎだ。」
どこか不機嫌に返ってきた声に、そーかなぁと適当に言葉を返す。
まぁ、確かに。
サッカー以外どうでもいいっていうのはあるかもしれない。
人と関わっていくのも、自分が生活していくのも、サッカーがやり易い環境を自分で作ってるだけだし。
だって、そんなものに時間を割いてどうする?
そんなことに頭を悩ませるくらいなら、どうやったらセーブ率が上がるかとか、シュートを止められるようになるかとか考えていた方が有意義だ。
あまりごたごたには巻き込まれないんだし、気にすることでもないと思う。
家族が末っ子故に俺に甘いことを良いことに大した気を使わないって言う部分はあるし、クラスメイトやチームメイトに煙たがられない程度に八方美人になっていたことはあるけれど。
実力と根性さえ見せれば、異人だということなんて関係ないって分かったしな。
初めの頃は「異国からサッカー留学だなんて、これだから金持ちの坊ちゃんは。」と言う嫌味を言われていたが、しばらくすると「遠くから大変だな、ちゃんと飯食ってんのか?」心配され、「生意気なんだよ」という挑発は「剛毅で良い奴じゃん」つー風に良い方の評価に変わった。
まぁ、まだ一部分で軋轢を生んでいることも確かだが。
年上との対話は実は得意だったりする。これは元々周りが大人ばかりだったっていうのが大きいな。
適当に相槌を打っているだけだったり、とりあえず笑っとけ、という内容の薄いものばかりでも、相手にそれを悟らせなければ勝手に「感じのいい子」と思ってくれる。
それって俺のせいじゃないだろ?
でも、無意識に他人との摩擦が起こらないように愛想振り撒いているのかな?
だとしたら、俺はサッカー以外にもちゃんと関心を持って生きてるぞ。
と言う訳で、シュナイダーの言葉には首を横に振らせて貰う。
「そんなことないぞ。日本のことはいつだって気になるし、学校の授業付いていけなくて必死の時もあるんだからな。人のこと世捨て人みてーに言うのはどうかと思うぜ。」
本当は、無関心かどうかなんてそんなこと、どうでも良いんだけどさ。
日本のことは本気で気になるし、ドイツの学校で必死なのも確か。
……日本か〜。
そう言えば岬とは最近逢ったけど、翼とはずっと連絡とってなかったな。
今何してるんだろう。
「そー言えば、翼はどうしてるかなぁ。ここんトコ連絡取ってねぇから電話でもしてみるかな。」
思ったことをそのまま呟いたら、シュナイダーの表情が一気に冷えた。
……また?
日本や翼のことを話すと、シュナイダーの機嫌は何故か急降下する。
多分、俺があっちに行ってしまうんじゃないかとか、ドイツを軽んじてるんじゃないかとか、いらないこと考えているんだろうけど。
どうしてそうなんだろうな?
俺がいつこっちよりあっちが良いとか、帰りたいとか言ったよ。
勝手に暴走してる妄想に、いちいち腹立てんな。
ああ、ほら。
無意識だろうけど綺麗な眉間に皺がよってる。
余談だが、美人が怒ると怖いというのは本当だとシュナイダーを見ていてつくづく思った。
迫力が違う。
「俺の前でツバサの話はするな」と憤っていたときのシュナイダーはマジで怖かった。
そのまま食われそうだったぜ…。
一応、「恋人」という位置にいるわけだけど、奴の事はサッパリ分からない。
時々勝手に凹んでいるときもあるしな。
「…やっぱり、お前本当に “おかしいくらい” 独占欲強いよな?」
自分のものだと思ったら、それが誰に取られても悔しいに違いない。
傲慢だよな〜。
でも、何て言うかな。
どうでもいい奴には見事なくらいに執着を見せないコイツだからか、そういうのってちょっと嬉しいかも。
シュナイダーの中での俺って、結構優先順位が高いってことじゃん?
あんまり四六時中張り付かれているのも嫌だけど、こんくらいなら許容範囲かな。
大切に思ってくれてるんだって分かるから。
ただの子供っぽい独占欲だけじゃないって、何となくだけど感じるから。
俯いていて怒っているんだか落ち込んでいるんだか分からないシュナイダーの頭に、軽くキスをする。
触れたか触れないか、そのくらいの口付け。
それでもシュナイダーは敏感に感じ取って。
綺麗な蒼い目を驚愕ゆえに見開いて。
白い頬をまるで少女のように朱で染める。
俺を見つめる表情は信じられないものを見たと言う風な、少し失礼なものだったけど。
ふわりと微笑んだ顔がこの上なく幸せそうで、綺麗だったから。
「……もう、1回。」
人差し指を立てて申し出た不躾な要求にも。
「1回で良いんだな?」
挑戦的に口の端を上げて応えてやった。
その、鳩が豆鉄砲食らったような顔。
実はこっそり、好きだったりするんだぜ?
…END…
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