健全逢瀬

 

 

 

「今度の日曜、空いてるか?」

 

「は?」

 

しとしとと雨が音楽を奏でる昼下がり。
若林の部屋で何をするでもなくまどろんでいたシュナイダーは、てっきりTVゲームに熱中して自分のことなど忘れてしまっているに違いないと思っていた若林からの急な問いかけに、うっかり間抜けな声を返してしまった。
実際、若林の手はコントローラーの上を行ったり来たり忙しなく動いているし、シュナイダーに背を向けたままTV画面に向かう姿勢も多少とも崩れてはいない。
空耳だっただろうか、と思い、一度ソファから起こしかけた身体をもう一度埋める。
ゆるゆると流れる外の雨音は、ちょうどいい子守唄のようだった。
そして、瞼を落とし始めた刹那。

「おい、聞いてんのか?」

無視すんなよ、と拗ねた声が聞こえて、シュナイダーは首だけ動かすと若林の背中に視線で何が、と問いかけた。
相変わらず若林は画面に夢中だ。
どっちが無視してるんだコラ、と些か機嫌を損ねてシュナイダーは無言の背中を睨む。

「若林。」

何の用だ、ともう一度尋ねる。
すると、やはり背を向けたまま、若林が答えた。

「だから、今度の日曜暇かって聞いたんだよ……ぎゃ!」

言い終わった直後に奇声を発したのは、画面中に真っ黒な背景に真っ赤な字で『GAME OVER』と書かれていることから察する。
折角自己新出そうだったのに…と項垂れてゲームを片し始める若林は、自分の言葉に責任を持っているのか、いないのか。
別段、気にしていない風にも見える。

そんな背中を見つめながら、シュナイダーは考えていた。

 

日曜、暇?

それって、もしかして…。

 

 

自分はデートに誘われているのだろうか。

 

 

思考はそんなところに行き着く。
雨が降っているせいで、彼の脳にはカビが生え始めているのかもしれない。
ゲームを片付け終わって振り返った若林が見たものは、らしくもなく口元を嬉しそうに緩ませているシュナイダーだった。

 

「な、何、ニヤけてんの、お前…?」

これには若林でなくてもビビる。
無表情と言われる皇帝が、綺麗な顔を崩してまで何を喜んでいるのだろう?
微妙に後退した若林に、シュナイダーは自分が今どんな顔をしているか思い当たって、素早く表情を引き締めた。
そうすれば、いつもの不遜なカール・ハインツ・シュナイダー。
若林も安堵した様子で、シュナイダーが寝転がっているソファの傍に移動してくる。
そしてもう一回、「日曜日」と寝ているシュナイダーを上から覗き込む形で答えを促した。

返ってきたのは声ではなく、不意打ちのキス。

ビックリして仰け反る若林の手首をさっと掴まえて、してやったりと人の悪い笑みを浮かべるシュナイダーに、若林は怒って良いのか、笑って良いのか、呆れるべきなのか判断が付かなかった。
とりあえず、馬鹿だなぁと思ったので、無遠慮にため息をつく。
けれど、シュナイダーの瞳は優しく笑うだけ。

 

「勿論、空いている。」

 

やっと返ってきた答えに若林は偉そうに言うな、と、また顔の筋肉が緩み始めた皇帝の頭を軽く小突いた。

 

 

+++++++++++++++++++++++++++++

 

 

「実家からアミューズメントパークのタダ券2枚送ってきたんだよ。最近ハンブルグにできたらしいんだが、お前知ってた?」

天気の良い日曜日。
約束通り10時に待ち合わせて、2人は目的地までの道程を並んで歩いていた。
といっても、場所は若林しか知らないから、シュナイダーは付いていっているだけだが。
珍しく暑くなった空気に、じんわりと汗をかく。

若林の先ほどの問いに、シュナイダーは軽く頭を振る。
どちらもサッカー漬けの毎日を送っているせいか、世の中のことに疎くなっていけない。
シュナイダーはマリーという情報提供者がすぐ傍にいるが、今回のことは聞いていなかったらしい。
どんな所か知りもしないのに向かっているというのも、少し変な気分だ。

 

 

「あ、ここじゃねぇ?」

やっと入り口らしき所に辿り着いて、若林が足を止める。
馬鹿でかい門の両脇には狛犬さながらに、白く丸みを帯びたフォルムのドラゴンらしき彫像が厳かに鎮座している。
「これは何だ」とシュナイダーが尋ねると、若林はちょこっと首を傾げて「この会社のシンボルらしい」と些か困った表情を浮かべた。
「へぇ」と短く頷いたシュナイダーだが、実は若林が首を傾げる仕草に見惚れていたので、実際のところは、脳を通過せずに右から左へと出て行ってしまった若林の折角の返答を掴み損ねて、適当に相槌を打っただけだったりする。
若林もこの会社自体のことをよく分かっていなかったりするので、シュナイダーがそれ以上あれこれと質問してこないのは有難かった。
そんな互いの本音を隠しつつ、2人はファンシーな門をくぐっていく。

 

「ようこそいらっしゃいました。」

 

「「わっ!」」

 

門をくぐった先にいたのは、ファンタジーな衣装を身につけたお姉さん…ではなく、厳ついサングラス、黒服、ガタイをしたちょっとやくざチックなお兄さんだった。
ちょっとやそっとのことじゃ動じない2人も、あまりのミスマッチさに目を白黒とさせてしまう。
そんな若林とシュナイダーに構わず、黒服のお兄さんは券を受け取るとスッと道の横に避けて2人を中へと促した。
きっと笑顔を浮かべているであろう瞳はサングラスで隠れて見えないのが残念でならない。
ともかく、入園は許可されたようだ。
(しかしあの黒服のお兄さんに子供は泣き出さないのだろうか。)

 

 

中に入ると、遊園地特有の少々苛立たしい喧騒が耳に入ってくる。
騒ぐ子供、叱る親、泣き出す幼子、黄色い女性の声。
どれも自分たちには似つかわしくない様な気がして、若林はこっそり眉間に皺を寄せる。
隣のシュナイダーはどう思っているのだろうと盗み見れば、こちらは平然と黒服に渡された園内マップに目を通している最中だった。
何処となく楽しそうな(というより浮かれている)彼を包む空気に、こちらが恥ずかしくなる。

(たかが一緒に遊びに来ただけじゃねぇか…何がそんなに嬉しいんだ?)

時々、シュナイダーの言動は若林の理解を軽く超える。
何度も塗り替えられるその記録にうんざりとため息を吐いたこともあるが、そんなシュナイダーも好きかもしれないと思ってしまう自分は相当彼に惚れているのだと嫌が応にも自覚してしまって、結局は飽きもせずに隣にいる。
仕方がないと思う。
これは自分がどうのこうのと考えたところで、どうにかなる問題ではないから。
そう思ったら笑えてきた。

 

「?どうした、若林。顔がにやけてるぞ。」

「せめて笑っているくらい言えんのか…。」

 

お前じゃないんだから。

折角気持ちを再認識してちょっと幸せ気分を味わっていたのに、当の相手からのこの気の抜ける言葉。
笑ってやるのも、もったいない気がしてくる。
けれど、怒った振りをして先を急げば、大急ぎで付いて来るシュナイダーが可愛かったりするので、やっぱり笑顔を封印するのは止めにしておいた。

 

 

「で、何処に行くよ?」

 

若林が問えば、オーソドックスにまずはジェットコースターかな、と近くを指差してシュナイダーが言う。
なるほど、彼の指の先には一体どのくらいの金を掛けて完成させたのだろう―――門の前で見た白い龍の乗り物が縦横無尽に駆け回っているジェットコースターと思しき物があった。
今日は招待客ばかりで空いているのか、そのコースターには然程並ばずに乗ることに成功する。
しかも一番前の席というおまけ付き。
大したことないだろうと高を括って挑んだ2人だったが、数分後、その認識の甘さを痛感することになる。

ジェットコースターは登る、降りる、廻る、走る。

何だそんな当たり前のこと、と思うかもしれないが、これが緻密に計算されつくした恐怖を身体に与えるギリギリの所でなされるから堪らない。
作ったやつは相当のマニアだ。
心の中でそう呟いた2人は、びくりと身体を駆ける恐怖にひたすら耐えるのであった。

次はといえば、やはりオーソドックスにホラーハウスだろうとシュナイダーが言い出す。

ここのホラーハウスは一風変わっていて、自分が銃を持って敵を倒しながら塔の頂上へ辿り着けたらクリア、というものだった。
2人1組で行けるのは有難い。
どちらも負けず嫌い故に夢中になって、なかなか合流できないであろうことは目に見えていたから。

さて、1階は目立った特別なイベントもなく、淡々と進む。
2階へはどうやら階段を登っていかなくてはならないらしい。
先に若林、後からシュナイダーと言う布陣で挑む。
2階についていきなり出てきたのはゾンビの化け物。
3D映像なのだというがこの迫力は一見の価値があると、器用にそのゾンビの心臓部を打ち抜きながら若林は感心する。
心臓辺りの発光している部分を与えられたレーザーガンで打てば、ゾンビは断末魔の声を残して煙のように消えてしまう。
この技術も大したものだと、やはり若林は思うのだった。
シュナイダーはと言えば、いまいち手に馴染まないレーザーガンに手間取ってはいるものの、天性のものであるのか、なかなか上手く敵を誘導して一気に片付けている。
金色の髪が動く度に揺れ、青い瞳が敵を捉える様は、サッカープレイ中のシュナイダーと少し被っていて、若林はどきりとしてしまう。
意識し始めたのも確か、プレイ中のシュナイダーの美しさに惹かれたからではなかっただろうか。
普段はただのセクハラ親父ではあるが、やはりサッカーをしているシュナイダーは文句なしにカッコイイ。
付け上がるから言葉にしたことはないけれど。
そんな風にぼんやりとシュナイダーの戦う様を見ていたから、若林は敵が背後に廻った気配に気付けなかった。

『ぐぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』

奇声を発して、若林へ覆いかぶさってくるゾンビ。
何故かそのゾンビだけは映像ではなく、どこかでコントロールされている人形のようで、不意をつかれた若林は抵抗する間もなく床に組み敷かれる。
ゾンビの手が腰に付けた鈴(言い忘れたがこれを敵に取られるとゲームオーバーというルールになっている)に伸びかけ、もう駄目か、と覚悟を決めた若林だったが、聞こえたのは自分がゲームオーバーになった機械音ではなく、その階をクリアした証であるファンファーレだった。
何が起こったのだろうと身体を起こしてみれば、目の前の壁には先程まで自分に覆い被さっていたゾンビが心臓部を打ち抜かれて止まってしまっている。
……何故か元々骨が見えている頭が破損してるような気もするが。

また後ろに気配を感じて弾かれたように振り返ってみれば、不機嫌極まれりといった風情でシュナイダーが仁王立ちしていた。

「だ、だんけ、シュナイダー…。」

ぽつんと礼を口にした若林に、シュナイダーは射貫かんばかりの視線を投げつける。
ミスしたことがそんなに気に食わないのだろうかと少々憮然とする若林だが、確かに自分が悪かったことには違いないので、今度は謝罪を口にした。
けれどシュナイダーの表情は硬いまま変わらない。

「…シュナイダー?」

触れば火傷しそうなほど怒り心頭といったシュナイダーに、若林もどうして良いのか分からない。
困ってつい出た彼の名前を呼ぶ声色は、どこか甘えを含んでいた。
それに過敏に反応して、シュナイダーは若林の胸倉を掴み上げる。
そしてそのまま、噛み付くようにキスをした。

「……ッ!」

あまりに突然起こった出来事に、反応するのが若干遅れる。
が、こういう場所に監視カメラは必ずあるものだと唐突に思って、若林は力任せにシュナイダーを突き飛ばした。
シュナイダーは無様に倒れることなく、器用にバランスをとって後ずさっただけに留まる。
咄嗟のこととはいえ、さすがにやりすぎたと思ったのか、また若林が謝罪をこぼすとシュナイダーの瞳に燻っている蒼い炎はまた熱を持ち始める。
そして、憎々しげに口を開いた。

「……簡単に、押し倒されてるんじゃない。」

「…は?」

つまりは。

そういうことだと。

「…あのなぁ、ゲームなんだからしょうがないだろ…。」

相手はロボットだし。

すっかり落ち着きを取り戻した若林が呆れたようにため息を吐く。
一方、いまだ納得がいかないのか拗ねているシュナイダーは、「しょうがなくない」と子供のような返事をしてくる。
このヤキモチ妬きどうにかならないかと考えたところで、結局どうにもならないことは分かっているから、若林も言及しない。
「今度から気を付ける。」と渋々約束すれば、それで収まるのだからわざわざ事を荒立てることもないのだ。
そして2人は上の階へと進む。

3階はガランとしていた。

まっすぐに続く廊下に拷問器具のようなものが点在しているほかは、特におかしいところもない。
2階のようにゾンビがでてくるわけでもないし、罠が張ってあるとも思えないし。
レーザーガンを構えて慎重に進む。
どうもここの経営者はえげつない性格の持ち主のようだし、ただのお化け屋敷のように飾ってある恐怖グッズの中を歩いて終わり、という幕切れはないように思えた。
BGMも未だおどろおどろしく、何処からか何かが出てきそうな気配すらする。
ちりん、と腰の鈴が鳴った。

途端。

ガシャンガシャン、と後方から閉まり出すシャッターが追いかけてくる。
挟まったら冗談抜きで死んでしまう。
(ここまでするか!?)と2人とも心の中で叫びつつ、それでも必死になって正面に見える微かな光明に向かって全力疾走する。
走っている間も回りの壁からは幽霊だかゾンビだかの類が2人を嘲笑うように這い出てくるし(もちろん立体映像)後ろからは容赦なくシャッターが下りてくるものだから、必死も必死、もしかしたら練習中より大真面目に走ったかもしれない。

やばい!と思ったところで、廊下の終着点が見えて、2人はその扉へ駆け込んだ。

ガシャーン…!!

振り返ると、扉から数ミリも離れていないところでシャッターが閉まっていた。
ちょっと見だと扉ではなく壁のように見える。
少しでも遅れていたらあのシャッターに潰されていたかと思うと、今更ながら冷や汗が噴出した。
乱れた呼吸を整えて、若林は安堵のため、息を漏らす。
すると、シュナイダーも同時にため息を吐いたようだった。

 

「…これって、ちょっとやりすぎじゃねぇ?」

憮然と若林が言えば。

「しかし、スリルがあって面白い。」

と、皇帝然とした表情でシュナイダーが返してくる。

 

またその顔が余裕綽々と行った風情で、若林は面白くない。
シュナイダーの息はさっきまで全力疾走していたことなど思わせないくらいに既に整い始めているし、さっと立ち上がる姿がまた絵になっていて思わず見惚れてしまいそうになる。
まだ肩で息をしていた若林は、シュナイダーのスタミナに感心せざるをえなかったのだが、元々が負けず嫌いなのだ、素直に「お前すごいな」と讃える気にもならない。
何事もなかったかのように立ち上がり、しかしもつれた足でつんのめってしまい、結局はシュナイダーの手を借りることになってしまった。
転びかけた若林に対するシュナイダーの助け舟はタイミングがバッチリ過ぎて、逆に嫌味だ。

(感じ悪ぃの。)

と言いつつ、何だかんだと羨望と尊敬をこめて見てしまうのは素直さ故。
短くお礼を言う若林を、シュナイダーは楽しそうに見つめていた。

さて、物語は最終章に突入する。

4階が最終フロアなので、ここをクリアすればゲームもハッピーエンドだ。
3階と違って、まるで宮殿のような佇まいを見せる豪華な部屋に2人は見入った。
ここまで来た過程に見たものも素晴らしいと思ったけれど、この部屋の造りは何と言うか、圧巻なのである。
豪華な部屋ではあるものの、そこには長年使われていない故の衰退の空気や、何かがあっただろう事を思わせる気味の悪い雰囲気、また、全体的にセピア調の室内の中で玉座にかかった赤いマントが鮮やか過ぎるのにも背筋に寒いものが走った。

すごいと思う。

この部屋で一体何があったのかと、気にかけさせる工夫が随所に見受けられた。

しばらく眺めていると、遠くからズシンズシンとまるで怪獣が闊歩しているかのような振動が響いてくる。
まさか、と思って玉座の裏に目を凝らしていると、龍のようなものが突然姿を現した。

その姿は声にならないくらい、残酷で美しい。

ゆっくりと翼を広げてふわりと飛び上がる姿には、目を見張る。

よく見ると、それは門のところに鎮座していた白い龍であることが分かった。

瞳が蒼い。

 

それはシュナイダーのものと少し似ていた。

「…これ、どうしろって言うんだ…。」

呆然と若林が呟いた、その時。

じ、と放送が入る音がした。

『良くぞここまでたどり着きました!この世界は目の前にいる白い龍―――ブルーアイズホワイトドラゴン―――によって、このような無残な形に変えられてしまったのです。ブルーアイズを倒して、世界に平和を取り戻してください!』

『レーザーガンはそのまま使えます。ブルーアイズの身体はレーザーをはじき返す性質を持っていますが、一部だけ、弱点として曝け出している部分があります。そこを探し出して、お2人の銃で同時に狙ってください!』

『同時です。それ以外はブルーアイズによって防がれてしまいますので慎重に!それでは、ご武運を!』

ぷつ。

入ったのも唐突なら、切れるのも唐突だった。

放送によりこの階で何をすれば良いのかは分かったものの、あまりの難題に顔を見合わせてしまう。
このどでかい龍のどこかに弱点が??
しかもその部分を2人同時に狙わないと無効??
随分と厳しい条件だと思いながら、やるしかあるまい、と言うシュナイダーに若林が頷いて、ゲームはスタートする。

 

龍は立体映像のようだった。

しかし、その存在感は本物と言っても差し支えない程禍々しく。
反応速度があまり速くないのがせめてもの救いか。
バサリと動く翼を上手く避け、繰り出される足を難なく避ける。
けれど、元々の大きさが大きさだけに、どうしたものかと頭を抱えてしまう。
露出している弱点。
そう言うからには分かりやすいもののはず。
全体的に白で統一されている身体の中で、目立って異端なもの―――

「!シュナイダー!もしかして…。」

「ああ、俺もそう思っていたところだ。」

器用にお互い龍の攻撃をかわしながら、龍の正面で背中合わせに合流する。
目立って異端なもの。
顔の中央に光る、透明度の高い蒼い蒼い威厳のある瞳。

―――そこだ。

龍が動き始める前に、2人はレーザーガンを構えて龍の両の目にぶち込む。
すると、今まで身体の何処に撃っても身じろぎもしなかった龍が急に苦しみだした。
バタバタと暴れて、埃が舞う。
鼓膜が破れるのではないかと思うくらいの高音の叫びを発した後、口の中に光が集まって…。

高い塔の天井に向かって、その光弾は放たれた。

見惚れるくらいに美しい残像を残して。

そして龍の身体は光の粒子となって分解されていく。

きらきらと光が雨のように降り注ぎ、暗かった室内を明るく照らしていく。

まるで1000年の眠りから覚めたような王宮がそこには蘇っていた。

「すげ…。」

思わず、若林が呟く。

輝く宮殿は、2人を包み込むように広がっている。
支配していた龍が消えて、本来の形を取り戻したのだろうか。
ゲームと言うことも忘れて、しばし惚ける。
それほど、リアリティ溢れる空間だった。

しばらくすると、これも立体映像だろうか―――どこからともなく城の住人が集まり始める。
玉座付近に陣取って、華やかな笑顔で口々に2人にお礼を言っていた。
いくら本物でないと言ってもここまで感謝されてしまうと、逆にこそばゆい。
「なんか照れくさいよな」とはにかんだ様に若林がシュナイダーを見上げれば、彼も珍しく上気した顔で「まったくだな」と殊勝な言葉を口にした。
反応が思っても見なかったものだったので(当然のような顔をされると思っていたらしい)、若林は面白くてまた笑う。

その笑顔がシュナイダーの頬に朱を差させている原因だと言うことには、まったく気付かずに。

存分に楽しんだホラーハウスを出て、2人は帰路に着く。

まだ遊んでいける時間帯ではあったが、先ほどのアトラクションですっかり疲れてしまった。
また、あの素晴らしい体験を胸の中で反芻したいと言う気持ちも多分にあったかも知れない。
ドキドキと胸が高鳴るような高揚感、まるで、サッカーをしているときのような。
それにすっかり囚われてしまい、若林は心の中で(もう一度来ても良いかもなぁ)…と呟いた。
それはシュナイダーも一緒だったらしく、時々アミューズメントパークの方を振り返っている。
彼の場合は妹を連れてきたい、という願望もあったのかもしれない。

だから。

「今度は、マリーを連れてきてやれよな。」

そんな若林の発言に、シュナイダーは一瞬心を読まれたのかと驚いた表情をしたが、すぐにやわらかく優しい表情で、ゆっくりと頷いたのだった。

「ああ、今度はお前と俺と、マリーの3人で来ることにしよう。」

さりげなく次回の約束を取り付けて。

夕日に映える綺麗な顔に微笑を乗せるという、若林に言わせれば卑怯極まりない表情に、若林自身も困ったように笑みを浮かべるしかなかった。

―――その表情も、シュナイダーにとっては反則技に違いないのだけど。

…END…

言い訳後書き

 

10000Hits踏んでくださったいのぽんさまへ捧げます☆
お題は『シュナ源でベタベタのデート。in海馬ランド。』という激しく素敵なリクだったのですが、消化し切れてない感じが…!
海馬ランドと言えば、絶対どこかしこにブルーアイズがいるはず!!と思い込みまくって書いておりましたが、何故だかキーボードが進む進む…。
でもアトラクションの描写書くのが楽しくて、うっかりベタベタなデートにはなりませんでした…。
最後のボスはブルーアイズでしたが、よくこの設定を社長が受け入れたなと自分で思ってみたり(笑)
だって悪のボス…って…。社長絶対認めなさそう。
駄犬か弟に言い包められたのかしら(笑)

こんな感じになってしまいましたが、よろしければお受け取りくださいませv
リクエストありがとうございました〜!

補足トリビア(笑)
※海馬ランド=遊戯王の海馬瀬人が将来作ろうとしてる世界中の子供のための遊園地
※社長=海馬瀬人
※ブルーアイズ=社長デッキのメインモンスター。青眼白龍。
※駄犬=城之内克也
※弟=海馬モクバ