希少価値

 
 

 

『最近注目の若手選手は?

 

「そりゃあ、バイエルンのカール・ハインツ・シュナイダー!クールでカッコイイ!」

「何と言ってもシュナイダー選手よね。あ、バイエルンの。プレイが見ていて気持ちが良いもの。」

「カール!カッコ良すぎ!」

 

―――というわけで、ブンデスリーガのバイエルン所属、カール・ハインツ・シュナイダー選手がダントツのトップでした!』

 

「何だ、こりゃ…。」

久しぶりに日本に帰国しての休日。
珍しくサッカーをする気にもなれず、家でゴロゴロとTVを見ていた若林は、お昼のワイドショーで取り上げられていた企画にそんな感想を吐いた。
こういう類の番組は普段ならあまり見ないが、新聞のテレビ欄で『今回のアンケートはドイツサッカーが熱い!』などと書かれていたものだから、一体どんな特集を組むのだろうとうっかり回してしまったのが運の尽き。
実際はブンデスリーガのことなどこれっぽっちもやらず、選手の人気投票アンケートだけで終わってしまった。
『ドイツサッカーが熱い!』というのは、シュナイダーが1位だったり、若林やレヴィンが10位以内に入っていたりするところから来ているのだろう。
翼、日向も良い順位に食い込んでいるのだが、それらを押さえて、「日本の」アンケートでシュナイダーが1位を取っていた。
ちょっとばかり驚く。

(シュナイダーがねぇ…。)

普段の彼を考えて、首を捻る。
クールって言うより、あれは仏頂面というか、愛想がないというか。
プレイが気持ちが良いというのは同感。
カッコ良すぎ!という意見には真っ向から対立させてもらいたい。
確かに試合中のシュナイダーはカッコイイと言える男かもしれないが、普段2人きりでいるときの彼は、とてもじゃないが『カッコイイ』などとは言えない。少なくとも若林は。

それと気になるのが、女性票が激しく多いこと。
レヴィンもそうだが、彼に投票した票の8割近くが女性。
ちなみに日向は五分五分、翼は僅かに女性票の方が多く、若林に至っては7割ほどが男性票だ。
何だか面白くない。

「確かに試合しか見てなかったら、そんな感想も持つかもなー。」

テレビを付けたままの状態で独り言を呟きながら、ぽすん、とベッドに転がって天井を見上げる。
金髪碧眼、眉目秀麗、長身、名門バイエルンのエース、等等…。
女性が好みそうな肩書きと外見を持っている。
見かけに騙されて、ファンになってしまうこともあるのだろう。

(性格は試合中に吐露されねぇもんな。)

意地悪くそんなことを思う。
『クール』『冷静沈着』そんなイメージがどうもメディアにはあるようだ。
若林からしたら、あんなに激情家なのに、と思わずにはいられない。
皆騙されている―――というかレッテル貼りすぎだ。

本当のシュナイダーは、ワガママで、尊大で、シスコンで、怒りっぽくて、俺様で、笑うと―――

(……笑うと?)

罵詈雑言を並び立てていた若林だが、ふと、笑顔に対する皮肉が何も出てこないことに軽く混乱する。
普段仏頂面ばかり拝んでいるから、シュナイダーの心からの笑顔は貴重だ。
それは恋人として付き合っている若林にも、同様で。
あまりシュナイダーは笑顔というものを浮かべない。皮肉った笑いとか、馬鹿にした笑いとか、からかい半分の笑いとかはすぐするけれど。
心の奥底から笑っていることは、本当に稀だ。
若林自身は感情の起伏が激しい方だから、彼がどうしてそんなに感情を押し込めるのか分からない。
もしかしたら、本当にそんな感情しか持っていないだけかもしれないが。
考え始めたら止まらなくなって、シュナイダーの幼少時代がきっと悲惨だったんだとか、父親の事件をまだ引き摺っているんじゃないかとか、普通に孤独を愛してるんだとか、色々と妄想してしまう。
一人用にしては広いベッドの上で転げ回る若林は、傍から見るとちょっと、いや、かなりおかしかった。

 

トゥルルルルル……

 

「うわ!」

考えに沈んだついでに昼寝にでも突入しようかと瞼を落としきったところで、電話のベルが容赦なく鳴り響く。
予想しなかったことに若林は情けなくも飛び上がり、ベッドから転がり落ちてしまった。
打った腰をさすりながら、自分の部屋に備え付けてある電話によろよろと向かう。

「ハイ、若林です。」

『……。』

「もしもし?」

『……。』

「もしもーし?」

『……。』

必死に出たのに、電話の向こうの相手はさっぱりと返事を返してこない。
間違い電話かぁ?と嫌そうに眉をしかめたところで、ようやっと返事らしきものが返ってきた。
しかし言うに事欠いて『……俺だ。』などと偉そうに。
若林の知る限り、こんな失礼な奴は一人しかいなかった。

「生憎、『俺さん』なんて方は存じ上げておりませんが。」

『……お前は子供か。』

ため息を吐いたことがはっきりと分かるような呆れた声。
久しぶりに聞く声に、不覚にも若林は喜んでしまった。照れ隠しも手伝って、先程の嫌味へと繋がってしまう。

 

「んで?何の用なんだよ、シュナイダー。」

 

面倒臭げに言うのはいつものこと。
シュナイダーもそれが分かっているから、電話口でくすりと笑う。

『用がなきゃ電話しちゃいけないのか?お前が寂しがっているだろうと思ってかけてやったのに。』

明らかにからかっている口調に若林は思わず切ってやろうかと思ったが、何となくそれは躊躇われて、不機嫌に返事をする程度に留める。
折角かけてきてくれた国際電話だし。

「…誰が、寂しがってるって?」

『ふふ、怒るな。……そうだな、寂しかったのは俺の方だ。』

楽しそうに笑って、シュナイダーは本心をさらりと若林に告げる。
このさり気なさが気障ったらしくて、シュナイダーの嫌なところベスト(ワースト?)10に若林が上げたいくらいだった。
しかし、そんな台詞に柄にもなく照れる自分はもっと嫌いだ、と若林は忌々しげに唇を噛み締める。

「お前には寂しさを紛らわせてくれる相手なんかたっくさんいるだろうが。わざわざ日本にまで電話かけてくること、ねーんじゃね?」

けっ、と吐き捨てると、シュナイダーは愉快そうにくぐもった笑いを漏らしていた。
恐らく笑うのを堪えているのだろう。
それがますます若林の癇に障る。
ふと視線を動かせば、付けっ放しのテレビが目に入った。
ワイドショーは次のコーナーに移ってしまっていたが、若林の脳裏にはアンケートの結果と、シュナイダーに対する女性の賛辞がこびりついている。

「…そういえば、日本のテレビ番組のアンケートで、若手注目選手、お前が1位だったぜ。クールとか?プレイが気持ちいいとか?カッコイイとか?日本の若い女性はお前に相当惚れてるらしい。良かった、な!

つい、最後尾に力がこもってしまい失敗した、と思っても、吐き出した言葉はもう若林の中には戻らない。
相手が悟らないのを祈るだけだが、シュナイダー相手に本心を隠そうとしても成功したことの方が少ないため、望みは薄かった。
案の定、電話の向こうのシュナイダーは面白そうに笑っている。

「なに笑ってんだよ。」

さっきテレビを見てから意味もなく不機嫌な若林は、シュナイダーがひとりで楽しそうなのが気に食わない。
しかも、若林の言葉を聞く度、シュナイダーの機嫌は上昇するようだ。
声が聞けて、とかいう薄ら寒いロマンチックな理由でもなさそうで。
訳が分からず、若林は一層顔をしかめてしまう。

『いや、悪い。……嬉しいんだ。お前のヤキモチなんて、滅多にお目にかかれるものじゃないからな。』

「はぁ?ヤキモチ?俺が?」

『……自覚なしか。さすが若林。』

今度は遠慮なく声を上げて笑う電話相手に、若林は困惑する。
こんなに楽しそうなシュナイダーを、見たことがない。
といっても、電話越しだから実際は聞いているだけなのだが。
しかも自分がヤキモチを妬いてる、などと、突拍子もない事実を突きつけてくる。
事実―――事実、と認めざるを得ないだろう。
女性がシュナイダーを誉める度に不機嫌になったり、「カール」と軽々しく呼ぶ女性にイラついたり、当人からの電話が嬉しかったり。
思えばどう考えても妬いてるとしか思えないことばかりしていたような気がして、若林は頭を抱える。
馬鹿だ。どう考えても馬鹿だ。
これならば、シュナイダーが大笑いする気分も分からないでもない。
普段は「お前ちょっと独占欲強すぎじゃねぇ?」とシュナイダーに諭そうとしている若林が、テレビに映った見ず知らずの女性に妬くなんて、滑稽すぎる。
顔を火が出そうなくらい真っ赤に染めて、若林はしばらく沈黙した。

『若林?』

いつまでも返ってこない返事に、シュナイダーが不安を覗かせて呼びかける。
その声がまた優しくて、若林はますます真っ赤になった。
情けなさも手伝って泣きたくなる。

「っ、馬鹿で、悪かったな!」

負け惜しみとも取れなくはない若林の叫びをどう取ったのか、今度はシュナイダーが沈黙した。
電話の沈黙は相手の表情が見えない分、怖い。
怒ったのか、それとも呆れているのか。
反応が返ってこない相手に焦れて、若林が何か言おうと口を開いたその時、やっとシュナイダーから声が届いた。

―――たい。』

しかし声量が低すぎて聞き取れなかった若林は、もう一回、と尋ねる。
すると、今度ははっきりとした口調でとんでもない内容が返ってきた。

 

『お前に、キスしたい。』

 

固まること、しばし。

言われたことを頭の中で反芻して、若林は項垂れる。
ダイレクトすぎる言い分に、なんて返して良いのかさっぱり分からない。
直接会っているときは、黙っていてもシュナイダーが何かしらアクションを起こしてくれるが、今は電話。
声だけの逢瀬。
何も言わないことには、話が先に進まない。
結局、「無理に決まってんだろ…」と力無く返すことにする。
それでもシュナイダーは真剣な声色を崩さない。

『顔が見たい。』

「そっちで売ってる雑誌に載ってるから、それでも眺めとけ。」

『触れたい。』

「お前とあんまり変わんねー体してるよ。自分でも触っとけ。」

『抱きたい。』

「その辺の柱にでも抱きついてろ。」

『……そう言う意味じゃないんだが。』

「知るか。」

シュナイダーが本能のまま発する欲望の言葉に、若林は淡々と代用策を与える。
言っている意味が分からないほど愚鈍ではないが、そのセクハラまがいの言葉に頬を染めるほど、純粋でもなかった。
ばっさばっさと切り捨てて少しは気が晴れたのか、勝ち誇ったように笑顔を浮かべる。

「電話代も馬鹿にならねぇだろ?もーいいから。またドイツでな。」

『…相変わらず冷たい奴だ。分かった、またな。』

 

カチャン。

 

「……ふーん。」

シュナイダーとの電話を切った後で、若林は手に握ったままの受話器を睨む。
もう少し粘るかと思ったけど。
存外にあっさりと電話を打ち切ったシュナイダーに対して、ほんの少し怒りたい気持ちになっていた。
ワガママだと自覚している。
追わせているのはいつも自分。シュナイダーが追ってきてくれるから、躊躇い無く冷たく出来るのだ。
甘えるのも柄じゃない。

だったら。

とことん惚れさせてみようじゃないか。

 

「しょーがねぇ。予定よりも早く、あっちに帰ってやるか。」

 

呆れてそう言う若林の顔に浮かんでいるのは、満面の笑み。
どうやら今回の休暇の半分は、ワガママな恋人のために使うことになりそうだと、心なしか弾んだ心で部屋を後にするのだった。

 

 

 

…End…

言い訳後書き

 
闇3500hits踏んでくださった吹雪さんのリクエストで『女の子にモテモテなシュナに若林が妬く(ちょいエロ&ラブで)』です。
というか全然エロでもラブでもないんですけど…!(汗)
電話という小道具がNGだったかしら。本当はもっとシュナにセクハラさせるつもりだったのですが(マテ!)
そして相変わらず、オチが弱い(いつものこと)
んでもって年齢は〜……どの辺だ?レヴィンがドイツにいるのは昔からだからWY辺り?怪我して日本で静養してるとか…?
ごめんなさい、
ご想像にお任せいたします(爆)
しかし、実際、人気投票とかしたらシュナイダーが1位に来ることはあまりなさそうですけどね〜。やっぱり小次郎か翼っぽい。
ベッカム現象が起きてるとでも思ってください…所詮、1チャンネルの行った独自のアンケートですので(笑)
国際電話のかけ方も受け方も私存じ上げませんので、その辺の記述無いんですけど;普通と違うのかな、やっぱし;
あとシュナの引き際がすごいアッサリなんですけど…。うだうだしてるのも男らしくないしな!とか思ったからかもしれません(笑)
若林一直線なシュナは想像できるのですが(寧ろオフィシャル)シュナ一直線な若林くんは想像しにくいなァ…。
これは私が若林ファンだからですかね?好きな人は愛されていて欲しいもの!(暴走)

相変わらずリクを遂行できないヘタレ管理人でスミマセン!
吹雪さん、宜しければ受け取ってくださいましー!